これまで紹介した事例から、ソフトウェアには業務のベストプラクティスや最善のビジネスノウハウが蓄積されることが分かる。その上で冨安氏が事例として最後に紹介したのは、そうした中身を含めた仕組みそのものを外販するケースだ。以下の2つを挙げた。(図4)
1つは、グローバルでEコマースを展開する企業。倉庫の自動化で集積したノウハウを「ロボット管理システム」としてクラウドサービスで提供しようとしている。
もう1つは、リアルスーパーからEコマース企業に変態した企業。Eコマースへの変態で蓄積したノウハウを「ラストワンマイル配送のシステム」としてソフトウェアと運送業者をセットにして売り出した。単なる個別配送の代行ではなく、顧客の利便性や満足度、正確性といった要素をソフトウェアによって高めている。「ソフトウェアに蓄積されたノウハウも含めてシステムを外販しているのが注目点だ」(冨安氏)という。
では、ソフトウェア企業への変態に向けて、企業はどのようなステップを踏んでいけばよいのか。冨安氏は図5に示した3つのステップを挙げた。
第1ステップは「本業の強化」。SIerに開発を依頼したりパッケージを購入したりすることでソフトウェアを調達する。これは本業の効率化が目的となる。
第2ステップは「本業のソフトウェア化」。本業の競争力が自前で開発したソフトウェアので出来具合にって左右されるようになる。先述した事例では、最初に紹介したファストフード企業や家具製造販売会社が当てはまる。
第3ステップは「ソフトウェアで越境」。ソフトウェアの開発力と蓄積したビジネスノウハウを活用して他の分野にも乗り出す形だ。先述した事例でもこのケースを幾つか取り上げた。
こうした3つのステップに向け、冨安氏は「これから第3ステップに向かう企業がどんどん出てくるだろう」との見方を示した。
最後に、同氏はソフトウェア企業への変態を成し遂げる企業の特徴として次の3つを挙げた。(図6)
1つ目は、ソフトウェアの価値を認識し、連続的改善のマラソンを走り続けることだ。「ビジネス現場の声を反映したソフトウェアを開発し改善し続けてビジネスノウハウをソフトウェアに蓄積していくことが、企業の競争力に直結するとの認識が重要だ」(冨安氏)
2つ目は、ソフトウェア中心に組織を組み替えることだ。「ソフトウェア企業へと変態するためには、ソフトウェア開発エンジニアを機動的に生かせる組織形態をとるのが効果的だ」(同)
3つ目は、誰もがエンジニアになっていくということだ。「ソフトウェア企業への変態を成し遂げるためには、大半の従業員がエンジニアになることが求められる」(同)
以上が、冨安氏の講演での「ソフトウェア企業への変態」に関するスピーチの内容だが、図5は「DXに向けたステップ」、図6は「DXを成し遂げる企業の特徴」とそのまま言い換えてもいいだろう。
加えて、誰もがエンジニアになっていくということについて、筆者の見解を最後に述べておきたい。この見方で重要なのは、誰もがプログラミングを行えたり、関連ツールを活用できること以上に、「どうすればビジネスのプロセスやノウハウをデジタルに落とし込めるか」もしくは「どうすればデジタルを生かしてビジネスを創出したり改善したりできるか」ということを理解し、行動できる点にあると考える。
DXに上手に取り組んでいる企業の経営トップは、プログラミングができなくてもデジタルの特性を素早くつかむ「嗅覚」に長けているというのが、さまざまな取材で得た筆者の実感だ。従って、誰をもエンジニアに仕立て上げる過程では、技術的な面もさることながら、その嗅覚をできるだけ早く身につけられるように注力してもらいたい。
そして、あなたの会社もDXに向けて、ぜひ「ソフトウェア企業へと変態」を成し遂げていただきたい。
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