「稼ぐ力」を作り出す合理的なプライシングの技術データで導くプライシングの技術(1)

市場ニーズや事業環境が変化する中で「稼ぐ力」を継続的に維持するには商品やサービスの合理的な価格決定が必要です。複雑なサプライチェーンの中でどう仕組みを構築すればよいのでしょうか。

» 2022年05月13日 09時00分 公開
[PwCコンサルティング]

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 DX推進に積極的に投資するにはその原資となる「いま稼ぐ力」が重要になります。商品を適切かつ合理的な価格で売ること――。商売の基本ともいえる事柄ですが、こと周辺環境の変化が激しい状況で適切な売価を決定するのは非常に難しい問題です。

 「商品やサービスの価格をどう決めるか」はあらゆる事業の根幹をなす重要なファクターです。コンシューマー製品やECビジネス、宿泊などのサービスでは、在庫や市場ニーズを加味したダイナミックプライシングの仕組みを使った値付けは珍しくありません。在庫を減らし適切な価格で商品を売り、適切な収益を得るための仕組みです。

 一方で、長いサプライチェーンと複雑な部品構成を持つ機械などのBtoB商材はそもそも原価の評価が複雑で、適切な価格を決定する際に必要な情報も多岐にわたります。加えて、売り切り型ではなく長期間のサポートサービスが期待される商材の場合、サポートサービスの顧客体験への適切な値付けをどう評価するかも課題となります。この価格決定を見誤れば収益が見込めないまま在庫を抱えるといった大きなリスクを生む可能性があるのです。

 この課題に最も影響を受ける業種の1つが自動車部品メーカーでしょう。製品ライフサイクルが長く、アフターセールス(After-Sales)のサービス提供も長期にわたるため、これらをどう評価して価格に適切に反映するかは大変難しい問題です。

 急激なEVシフトに代表されるように、自動車業界は商材そのものの構成が継続的に変化する過程にあり、自動車部品メーカーは長いライフサイクルの商品を抱えながら、従来とは異なる取引先を取り込むなどの産業構造の変化にも対峙(たいじ)しています。このような状況だからこそ、確実に収益力(稼ぐ力)を付けるために、合理的なロジックに基づくプライシングの仕組みを新たに確立する必要があります。

 本稿は自動車部品を取り扱うケースを題材に、新しい価格付けのロジックを紹介していきます。一部で業界に特化した話題もありますが、考えるべき点、考慮すべき要素はどの業界であっても基本的には変わりません。自社が合理的な判断の下でどう「稼ぐ力」を身に付けるかを考える際に、参考にしていただけると幸いです。

筆者紹介

石井元毅 PwC シニアマネージャー Industrial Products & Auto

製造業界を中心に多岐にわたるプロジェクトに従事。プロジェクト企画構想から、日本・海外へのシステム導入支援、要件定義〜開発管理、システム稼働後のBPR・組織再編の支援など、大規模かつ長期にわたるプロジェクトを数多く経験している。大手製造業むけ基幹業務および価格管理・販売管理プロジェクトをリードする。PwC製造業部門の価格管理Solutionの主担当として活動中。


奥村健一 PwC シニアアドバイザー Industrial Products & Auto

36年余の日系自動車OEMに勤務。AS部門でのビジネスプラン、価格戦略、SCM関連業務の経験が比較的長く、加えて新システム企画・開発・導入及び物流改革プロジェクトマネジメントも複数回遂行。またグローバル経験も豊富で、欧州に10年、インドに2年駐在した。特にインドでは日系自動車OEMの新配給店のアフタセール総責任者(VP)としてオペレーション、システムの立ち上げ、及び事業管理を担った。PwCでは主にAS価格戦略Projectを担当。


山西知之 PwC シニアマネージャー Industrial Products & Auto

日系自動車メーカー、グローバルコンサルティングファーム、独系自動車メーカーを経て現職。約20年にわたるインダストリーとコンサルティング経験を通じて自動車業界に精通。アフターサービスパーツの戦略的価格改定、自動運転モビリティサービス事業立上げ支援、インド市場調査を含めた新規参入サポート、独系OEMでのDealer Management System(DMS)刷新/改修、Ideal Network Planning(INP)、販売店標準会計基準改定、ディーラースタンダート改定/監査など構想から実行まで多数のプロジェクトをリード。

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