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» 2022年06月16日 14時00分 公開

なぜ研究開発に多額の投資をしたのか? UPS「伝説のCIO」のテクノロジー戦略Supply Chain Dive

UPSは自動化の活用、より迅速で情報に基づいた意思決定のためのデータ活用など新技術を物流ネットワーク全体にわたって採用している。新技術導入を進めた同社元CIOは配送ドライバーとしての勤務経験があり、現在はSalesforceのCIOに転身した「伝説のCIO」だ。

[Naomi Eide,Supply Chain Dive]

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Supply Chain Dive

 フアン・ペレス(Juan Perez)氏は国際的な貨物航空会社であるUPSで1990年に配送ドライバーを経験した後、2016年にCIO(最高情報責任者)の肩書を得るという“遺産”を同社に残した。その後、彼はエンジニアリングも含めた役割を担うようになり、60億ドルの予算権限を握った。

 ペレス氏は2022年4月6日、クラウドベースのビジネスアプリケーションを提供するSalesforceのCIOに着任した。まだ任命されていない同氏の後任者は彼の仕事の「半分」を引き継ぐことになる。

 「CIOとエンジニアリングオフィサーの役割が一緒になることは今後はないだろう」とペレス氏はCIO Diveに語った。「私は両方の分野で経験があり、この2つの機能を社内で統合する必要性があったからこのようなことができたのだ」(ペレス氏)。

 同氏の後継者は厄介な問題に直面することになる。「UPSはテクノロジーに依存しており、ITが中心的な役割を担っているという問題だ」とペレス氏は話す。

 UPSは55万人以上の従業員(うち技術職は5000人以上)を擁する。航空輸送やサプライチェーンソリューションビジネス、小荷物輸送を含むグローバルに事業を展開する。UPSは1日当たり約2500万個の荷物や書類を配達している。

 ペレス氏が「スマートロジスティクスネットワーク」と呼ぶものの随所にテクノロジーが織り込まれ、データ駆動型戦略がネットワークを取り囲んでいる。ユーザーやシステムが意思決定をより適切、迅速に行うためにデータが利用され、必要に応じて自動化が利用できる。

 「何がネットワークに投入されようが、荷物は常に流れている」とペレス氏は言う。

研究開発に多額の資金を投入する理由は?

 ペレス氏のUPSにおけるキャリアは、カリフォルニア州ビバリーヒルズで管理職研修の一環として8カ月間ドライバーとして勤務したことに始まる。

 ペレス氏が荷物を持って(配達先の)ドアを叩いていた頃、配送プロセスではアナログのトラッキングが使われ、荷物の情報は紙に手書きで記録されていた。同氏はこの時、クリップボードサイズの基本的なコンピュータである「配達情報取得装置」(DIAD)の最初のバージョンを試験的に導入した。

 2022年、UPSはアプリケーション全体とバックエンドのサポートシステムを、より軽快な小型端末「DIAD 6」にリファクタリングする予定だ。ペレス氏はこのシステムの進化を「ドライバーアシスタント」と呼び、より高性能な車両と携帯端末を補強するものと考えている。

 「ここにUPSが常に抱えている好循環がある。今手にしているイノベーションが、将来さらなるイノベーションをもたらす」と同氏は言う。

 Crossroads Parcel Consultingのマネージングパートナーであるディーン・マキウバ氏は、UPSのテクノロジーへの投資は最大の競争相手であるFedExに対する主要な脅威の一つだと述べている。

 「UPSは顧客の技術ソリューションに投入するリソースを常に大幅に増やしてきた」と、マキウバ氏は述べる。FedExのエクスプレス輸送への投資戦略に遅れをとったUPSは研究開発に資金を注ぎ込んだ。

 UPSは現在もテクノロジーに多額の投資を行っているが、ITに関する開発や規制の複雑化によりその展開が遅れることがある。ドローンや電気飛行機などの壮大な計画は設計段階を終えたところだ。しかし、ペレス氏はこれらを「ラストマイルデリバリーの未来」と考えている。

 UPSは宇宙航空メーカーであるBETA Technologiesから垂直離着陸機を購入する計画で(注1)、まずは2024年に10機が納品される予定だ。航続距離250マイル(約402キロメートル)の航空機には1400ポンド(約635キログラム)の貨物容量があり、中小規模貨物に向いている。UPSは最大150機の購入を検討している。

「ITはビジネス目標の中心にあるべきだ」

 「ITはビジネスチームの目標に加えられるものであり、もちろんビジネスチームの結果に関与するものでもある」とペレス氏は述べる。

 同氏は、UPSのアーキテクチャチームが組織全体に展開されている全ての技術を確認するための基準(作り)とプロセスの道を切り開いた。ペレス氏によるこのような規律とテクノロジープロセスの改善によって、UPSはビジネスに影響を与えるインシデントを73%削減したという。UPSでは、技術に関連する問題やその変更によって荷物が時間通りに配達されないケースを「ビジネスに影響を与えるインシデント」と見なす。

 UPSは研究開発への投資と並行してネットワークへの投資も続けている。同社は2022年初旬に「Google Cloud」との提携拡大を発表した(注2)。2019年、UPSはルーティングソフトウェアに関する「Google Cloud Platform」との連携によって年間最大4億ドル(約537億7000万円)を削減し(注3)、燃料消費は年間1000万ガロン(約4550万リットル)削減したと発表した。

 4台のメインフレームと76.3ペタバイトのストレージを保有するなど、オンプレミスの技術投資も依然として旺盛だ。UPSによれば、データセンターのサーバの90%以上が仮想化されている。

 UPSにおけるペレス氏の実績の一つは、オンロード統合の最適化とナビゲーションシステム「ORION」に関する取り組みだ。同システムはドライバーのルートを動的に最適化し、ラストマイルデリバリーを改善するのに役立つ。

 UPSは現在ドライバーの配車の自動化に取り組んでいる。「自動化によって配車全体を“創造”し、ドライバーにフィードバックしながらルートを最適化できる」とペレス氏氏は言う。

 UPSはクラウドの容量を増やし、新たなデータ分析やAI/Ml(注4)ツールに投資して、サプライチェーンの運用改善を図る。ERPや給与システムなど、バックオフィスソリューションのモダナイゼーションにも投資している。

 ペレス氏は常に一定額の予算を技術のモダナイゼーションに割り当てる一方で、技術の負債を削減するための余地も確保しており、そのバランスを厳格に保った。

 「全てはバランスだ」とペレス氏は言う。「結局のところ、CIOはビジネス部門と協力し、予算の使い道に関する企業全体の優先順位を決めるために仕事をすることが求められる」(ペレス氏)。

 パンデミックで発生した配達需要に後押しされ、CIOはCEO(最高経営責任者)に報告し、取締役会に直談判するようになった。技術はミッションクリティカルな業務として確立している。

 コンサルティング会社であるKorn FerryのCIO/CTO(最高技術責任者)事務所のクレイグ・スティーブンソン氏(シニアクライアントパートナー兼北米マネージングディレクター)によれば、「パンデミックの間に、ビジネステクノロジーと経営幹部の連携は大きく改善された」という。

 「技術リーダーのトップ層は高度な複雑性を処理できる機敏な思考を持つ人たちだ」とスティーブンソン氏は述べる。「企業は進化を続け、データ分析やクラウドの専門知識を持つ人材の確保に努めている。成功するリーダーには、曖昧さを受け入れる俯瞰(ふかん)的能力が必要だ」(スティーブンソン氏)。

 ITをビジネス目標の中心に据えることは、ペレス氏のリーダーシップ戦略と同氏の“遺産”にとって重要だ。(UPSで)6年以上CIOを務めたペレス氏は、かつて配送ドライバーだったことから、UPSのトップリーダーであるキャロル・トメ(Carol Tomé)CEOと密接に連携し、その役割を確固たるものにした。

 事実、ペレス氏は「CIOはCEOに報告しなければならない」と公言している。「CIOが任務を全うするには、CEOとの対話やCEOからのサポートが重要だ」(ペレス氏)。

(注 )Flight Forward adds innovative new aircraft, enhancing capabilities and network sustainability

(注2)UPS Reimagines the Way Goods Move Across the Globe with Google Cloud

(注3)UPS uses Google Cloud to build the global smart logistics network of the future

(注4)マーケティング戦略に必要な情報を収集し、分析すること。マーケティングインテリジェンス。

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