「スマートシティー」には先端技術が詰め込まれた未来都市というイメージもあるが、日本で主流になるスマートシティーはこうした未来都市とは別のタイプだと筆者は予想する。先進国だけでなく新興国でも進むスマートシティーとの比較から浮かび上がる、「日本型スマートシティー」の課題とは。
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目まぐるしく動くIT業界。その中でどのテクノロジーが今後伸びるのか、同業他社はどのようなIT戦略を取っているのか。「実際のところ」にたどり着くのは容易ではありません。この連載はアナリストとしてIT業界とその周辺の動向をフラットに見つめる矢野経済研究所 小林明子氏(主席研究員)が、調査結果を深堀りするとともに、一次情報からいかにインサイト(洞察)を導き出すか、その“道のり”を明らかにします。
「スマートシティー」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、XR(VR/AR/MR)などの先端技術をフル活用し、デジタル社会を体現した未来都市だろうか。または、過疎地となった地方で自動運転車が買い物難民となった高齢者を送迎している情景だろうか。
答えは「どちらも正しい」。と言おうか、スマートシティーに決まった定義があるわけではない。
よく知られたスマートシティーとして「ウーブンシティ」(Woven City)がある。トヨタ自動車が静岡県裾野市の自社工場跡地に展開するスマートシティーだ。
2021年だったか、テレビ番組で、タレントのマツコ・デラックスさんが「トヨタのあの街はすごそうだよね。ちょっと住んでみたいと思う」と言っていて、一般的な認知度の高さを再確認した。ウーブン・シティーで自動運転車など最新のモビリティがいち早く実用化されることはもちろん予想できるが、トヨタグループの事業範囲は金融や住宅など多岐にわたっており、電子決済やスマートホームをはじめとする多様なサービスが導入されるだろう。
筆者は建築に興味があるため、デンマーク出身のビャルケ・インゲルス氏がウーブンシティの都市設計を手掛ける点にも注目している。彼はGoogleの新本社などを設計した他、イーロン・マスクと火星移住計画用の人工都市開発にも取り組む気鋭の建築家である。ウーブンシティはビジュアルからして「スマート」になりそうで、「スマートシティー=かっこいい未来都市」のイメージにもっとも近いのではないか。筆者は「トヨタのあの街にちょっと観光に行ってみたい」と思っている。
しかし、日本で取り組みが進むスマートシティーのほとんどは、こうした未来都市のイメージとは違ったものになるだろう。
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