企業を活性化させるのは「社長メッセージ動画」だけじゃない Panoptoに聞く自発的シェア文化の作り方(2/2 ページ)

» 2022年06月30日 12時30分 公開
[田中広美ITmedia]
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ビジネスシーンに動画活用は根付くのか?

 ここまで動画管理ソリューション導入のメリットを聞いてきたが、便利であるにもかかわらず結局使われなくなるツールもある。ビジネスシーンにおいて動画は根付くのだろうか。

 「ビジネスの場における動画の利用は、『Slack』とよく似ている」とランディ氏は語る。

 Slackは多くの企業でコミュニケーションツールとして使われているが、Slackが登場したときは既にメールがビジネスの場に定着していた。「毎日多くのメールをやりとりして手いっぱいな中、機能が被るSlackを導入する必要はないと多くのビジネスパーソンが思ったが、実際に使ってみて見方は変わったはずだ」(ランディ氏)。

 「Slackや動画はコミュニケーションを新しいレベルに引き上げるものだ」と語るランディ氏が強調するのが「シェア」という概念だ。「物事の進め方のヒントを動画にしてシェアしたり、エンジニアが作った新製品を動画にしてシェアしたりする。トップダウンの情報伝達ではない、横のつながりである『シェア』をやりやすいのが動画の特性だ」(ランディ氏)。シェアを通じてさまざまな知識が蓄積されることでPanoptoはコレクティブナレッジ(集合知)の集積地となる。

 Panoptoを利用する企業として想定されるのはどういう業種だろうか。特にニーズが多い分野として同社が想定するのが銀行などの金融機関や保険業界、重工業系の製造業だ。「私自身も以前PayPalに勤務していたのでよく分かるが、金融業界は法規制が厳しい分野で動画コンテンツを安全に共有したいというニーズがある。保険業界は従業員の出入りが多いためトレーニング動画の需要が多い」(ランディ氏)。

 製造業についてはこの2つの業界とは違ったニーズを想定している。「自動車などの重工業では高いスキルが求められる。熟練のエンジニアの作業を撮影した動画を教材にトレーニングしたいとのニーズが多いようだ」(ランディ氏)。

 ランディ氏がPanoptoの強みと考えるのが「手軽さ」だ。「将来的には会議はメタバースで実施されて私たちの代わりにアバターが出席するようになるかもしれない。しかし、それは今のビジネスの進め方と比べて大きな変革になるので、そこに行きつくまでのステップが必要だ」(ランディ氏)。

 その点、動画は既にわれわれにとって身近な存在になっている。「動画を撮影して共有することにわれわれはだいぶ慣れてきた。PanoptoはPC以外のハードウェアはいらないので大きな投資は必要ない。クラウドベースのサービスなので始めやすい」(ランディ氏)。

「従業員全員で使ってみた」 アシストの活用例から見えること

 米国を創業の地とするPanoptoから見たアジア、そして日本の市場としての特徴は何か。「アジアはスマートフォンの利用率が高いエリアで、動画は既に活発に共有されている。しかし、アジアの企業文化ではカメラの前に立つのは企業幹部に限られていた」とランディ氏は見る。

 「こうした企業文化を変えるために企業がチャレンジすべきなのは『小さなトピックから始める』ことだ。まずは全社ではなく一部署のような小さな組織内で従業員が皆がよく知るトピックについて話し、その動画をシェアすることから始めるといい」(ランディ氏)

 日本企業における活用例としてランディ氏が挙げたのがパートナー企業の1社であるアシストの事例だ。「アシストはPanoptoを広めるために社内で『アンバサダー』を任命している。アンバサダーに任命された従業員がビデオ撮影や共有の方法を繰り返し動画にしてシェアすることで、動画撮影へのハードルが低くなった。また、各部署の具体的なユースケースやアイデアを全社で共有できた点も大きい」(ランディ氏)。

アシストの佐子雅之氏(DX推進技術本部デジタル推進技術統括部ナレッジ・プラットフォーム技術部部長、右)と板木栄樹氏(ビジネスソリューション本部新事業共創推進室参与) アシストの佐子雅之氏(DX推進技術本部デジタル推進技術統括部ナレッジ・プラットフォーム技術部部長、右)と板木栄樹氏(ビジネスソリューション本部新事業共創推進室参与)

 アシストの板木氏は、ランディ氏の発言を受けて「何か資料を共有する際にも、動画でパワーポイントの資料を見せながら身振り手振りを交えて説明すれば、『資料を読んでおいて』とただ渡すよりも従業員の理解度は高まるし、知識としても定着しやすい。また、会議の録画を見ればミーティングの空気感がよく分かるため、その場にいなかった者が空気感を参考にした施策を打つことも可能になる」と実体験を交えて話す。

 佐子氏が続けて「Panoptoを継続的に利用した結果、『撮影してPanopto上にアップロードしておく』ことを『パノる』と言うようになった」と、社内で動画撮影とその公開が日常に定着した様子を語った。

 アシストは従業員約1200人全員が自己紹介動画を撮影、登録した他、トップメッセージやプロジェクト活動報告、営業現場のノウハウやTips、各種システムの使い方、各種説明会やミーティングの動画などをシェアしている。2022年3月時点で総登録動画数は約2万493本、総視聴時間は約78万8930時間(従業員一人当たり平均視聴時間33時間/月、1日平均視聴時間1.65時間)に上る。特に移動時間や隙間時間に動画が視聴されることで、情報収集の面で成果が出たという。

 ここまで話を聞き、日常生活で根付いた動画をビジネスの場で活用することで、何度も同じ説明を繰り返すといった負担を削減しつつ、場所や時間を共有していない場面でも感情を交えたコミュニケーションをとれたり思いを共有できたりすることが分かった。

 Panoptoは今後、大規模な企業や組織で年に数度実施される大規模な人事異動など、日本のビジネス習慣に対応した機能の搭載も検討しているという。

 ランディ氏は最後に日本企業における動画活用の可能性について話した。「端的に情報を伝えるメールなどテキストによるコミュニケーションがなくなることはないだろう。しかし、動画を活用することで、感情を伴うコミュニケーションの選択肢が増える。日本での導入企業も予想よりも早く増えているので、今後も期待している」(ランディ氏)。

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