ここまでオンプレミスとクラウドの間にはIT財務管理の観点で大きな違いがあることを説明しました。では実際にこの違いが作り出す3つの課題を説明します。
企業のクラウド利用においては、IT企画やITインフラ部門「クラウドCoE」(CCoE:Cloud Center Of Excellence)などのチームがクラウドの使い方に関する一定のルールやガイドラインを策定します。実際のクラウドの利用は個別の業務システム担当部門の裁量に任せるアプローチが一般的です。この場合、IT企画やインフラ部門では全社的なクラウドコストの全体像を把握し、ムダを見つけて最適化するといったことが難しいとの悩みも聞かれます。
事業のスピード感を損なうことなくどのようにコスト最適化を進めるかが課題となっています。
クラウド事業者は「リザーブドインスタンス」などのように、1年や3年といった期間で一定量の利用を約束することで割引を得られる「確約利用割引」など、複数の割引オプションを提供しています。しかしこれらを活用にするには各ITシステムの使い方を踏まえて「どの割引オプションをどれだけ利用するか」を慎重に見極める判断が必要です。
そのため「確約利用割引の活用は年に1度しか判断できない」「様子見のままになっている」「確約利用割引を申し込みしたが途中で計画が変わり、ムダになってしまった」といった例もあります。一説によると、確約利用割引の3割がムダになっているそうです。
クラウドはオンプレミスと比較すると導入の早さや柔軟性、拡張性に優れますが、業務システムにおける開発スピードの加速も影響し、ITシステムが大規模化や複雑化しています。
ある企業は既存のシステムをオンプレミスからクラウドに移行した後も、IT資産管理などの業務をオンプレミス時代の手法のまま運用していました。クラウドに置かれた数万台のサーバの一覧を表計算ソフトで管理し、年に1度IT企画やインフラ部門の社員数人が数日かけて棚卸しを行ってムダ遣いの確認や確約利用割引の適用判断をしていたのです。
クラウドを利用するITシステムの増加と複雑化の中で、現状のやり方では限界があり、見直しが必要になっています。
クラウドの世界においては、これまでのオンプレミスの世界とは異なるIT財務管理の在り方が必要です。
「クラウドにかけるコストをむやみに『削減』するのではなく、どのようにしてコストの妥当性を評価し『最適化』していくのか」「クラウドの利用量が刻々と増減する中で、どのように継続的に取り組むのか」といった課題に対して昨今、注目を集めているのがクラウドのコスト最適化の考え方「FinOps」(フィンオプス)です。
読者の皆さんは「DevOps」(デブオプス)という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。DevOps とは開発(Development)と運用(Operations)の混成語です。新たな機能の追加を担う開発チームと安定稼働を担う運用チームは、その役割の違いから衝突しがちです。DevOpsはこの問題に対して、組織文化の変革を目指して各種ツールを活用しながらDevelopmentとOperationが互いに協調して事業価値を高め、安全安心なITサービスを迅速に利用者に届けるアプローチです。
DevOpsと同様にFinOpsは財務や調達チーム、開発や運用チームが協調して、クラウドで事業価値を最大化するための「IT財務管理の考え方」をまとめた方法論と言えます。
これにより、変動するクラウドコストに対して「誰がいつどれだけ使ったのか」「それが妥当なのか」という財務面での説明責任を明確にします。また「Q:品質」「C:コスト」「D:納期」のトレードオフ(二律背反的関係)を考慮しながら、クラウドコストの最適化を目指します。
本連載ではこのFinOpsについてその基本と、実践方法や当社の事例等を数回に分けて紹介していきます。
次回はこのFinOpsを「いつ」「誰が」「どのように」進めていくのかを解説します。
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