なぜデータ利活用プロジェクトは頓挫するのか? 大企業ほど陥りがちな「社内調整の壁」の乗り越え方DX Summit vol.13 レポート

多くの企業でデータ利活用プロジェクトが進むが、開始前、あるいは開始直後に頓挫して後戻りするケースも少なくない。その原因と解決策をBIコンサルティングなどを手掛けるデータビズラボの永田ゆかり氏が解説する。

» 2022年09月21日 13時15分 公開
[土肥正弘ITmedia]

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 多くの企業でデータ利活用プロジェクトが進むが、開始前、あるいは開始直後に頓挫して後戻りするケースも少なくない。その原因と解決策をBIコンサルティングなどを手掛けるデータビズラボの永田ゆかり氏が解説する。

データビズラボの永田氏 データビズラボの永田氏

 「BIツールを導入したがデータ活用に結びついていない」「データ利活用のためのチームを編成したが結果が出ない」という声も聞こえる中、データ利活用のためのプラットフォーム作りや活用体制作りに成功している企業はどのようにプロジェクトを推進しているのだろうか。

 顧客にBIコンサルティングやデータマネジメントコンサルティング、データ基盤構築、データ可視化、社内推進支援などのサービスを提供しているデータビズラボ 代表取締役 永田 ゆかり氏は「データ活用には課題やゴールの言語化が大切だ」と指摘し、「顧客を支援する中で、データ活用に関して発生しやすい問題が見えてきた」と語った。

本稿は2022年8月29日〜9月1日に開催されたITmedia 主催「DX Summit vol.13 変わるデータ経営、変わるデータ基盤」の講演「実例から解説! データ利活用プロジェクトを成功に導くには?」を基に編集部で再構成した。

データ活用プロジェクト「よくある3つの悩み」 どう解決する?

 データ利活用プロジェクトで発生しやすい問題と永田氏が考える解決策をプロジェクトのフェーズごとに分けたのが次の図だ。

データ利活用プロジェクトで発生しがちな4つの壁(出典:データビズラボ 永田氏の講演資料) データ利活用プロジェクトで発生しがちな4つの壁(出典:データビズラボ 永田氏の講演資料)

 データ活用プロジェクトをスタートさせる前の段階で悩む企業は多い。代表的な悩みは次の3つだ。

  1. トップマネジメントがデータ活用プロジェクトの価値を理解してくれない
  2. 十分な予算が確保しにくい
  3. 他部署との協力体制の構築が難しい

 これらは一言で言えば「社内調整の壁」だ。大きな組織であればあるほど利害関係が複雑になる。

 2の「予算の確保」は、社内の人的コストの他、ツールの導入費用やコンサルティングなどの外部の導入サポート費用、データ分析部署を立ち上げる場合の時間的、経済的コストを計算して予算を確保しなければならない。データ活用プロジェクトは緊急性が高くないと見られがちなため、マネジメント側がデータ活用の意義を深く理解していなければこの段階で頓挫してしまうことが多い。

 また、3の他部署との協力体制がなければデータ利活用は進まない。協力体制をどう構築すべきか悩むケースも多い。

 永田氏はこうした悩みについて、「このような課題を解決しないままプロジェクトを進めると、やがて頓挫する。それを防止するためには、プロジェクト推進者が常に明確なビジョンを提示して具体的な行動につなげることが重要だ」と指摘する。具体的にはどうすべきだろうか。

「スモールスタート」と「クイックウィン」

 成功している企業に共通するポイントは、最初は小さく始めて成果物を出し、社内から理解を得ていることだ。「これが王道の考え方で、私はこれしかないと思っている」と永田氏は語る。

 システム構築はかつてはしっかりと要件定義し、それに基づく仕様を決定してシステムを構築、十分にテストしてからリリースするという手法しかなかった。それが、現在はプロトタイプでもよいので迅速にリリースして、60点ぐらいの出来であっても関係者に見てもらえるものを仕上げ、さまざまな指摘を取り入れながら完成を目指す「アジャイルな手法」が主流になってきている。永田氏は「このやり方を利用しない手はない」と強調する。

 特に「まず迅速に小さく作ってみる」ことは重要だ。具体的なモノを見なければ、具体的な議論はできないからだ。プロトタイプをベースに議論を進めることで、ユーザー側が必要とする仕組みがはっきりし、データ整備のやり方も見えてくる。多くの関係者が必要とするものが分かれば、「予算を配分してもよい」というトップマネジメントの決断が得られることもある。永田氏は、「このようなきっかけ作りは重要だ」と話す。

 次に大事なのがテーマ設定だ。利益拡大やコスト削減に役立つテーマは関係者に響きやすい。最初のプロジェクトのテーマには理解しやすいものを選定するとよい。永田氏は「個人的な見解だが」と前置きし、「バックオフィス系のプロジェクトは影響が間接的なので、ひとまず別のテーマのプロジェクトの成果を見て、成熟してから取り組んだほうがよいと考えている」と話した。

 スモールスタートで成功した一つの事例として、永田氏は三井ダイレクト損害保険のケースを紹介した。同社はデジタルマーケティングに関するデータ活用戦略の全体最適化のためのKPIツリーの設計や体制構築のために、PoC(概念実証)が可能なMVP(Minimum Viable Product:価値提供可能な最小限のプロダクト)を作り、社内で成果物を「取りあえず見てもらうこと」に重点を置いたプロジェクトを推進、継続して最適化を進展させた。

 自動車のグローバルトップメーカーは、同社のAIアルゴリズムの価値を示すさまざまなデータを可視化する仕組みを1.5カ月というスピードで実装し、公開した。可視化しなければ理解しづらい技術を顧客に理解してもらうために大きな役割を果たしたという。

 このように、「小さく始めて成果を見せられる」のがプロジェクト成功の最重要ポイントだ。永田氏は「ただし、業務課題やプロセス課題をデータの課題にどのように翻訳できるかについてはデータの専門家がいないと難しい部分であるため、外部のコンサルティングが必要になるケースが多いだろう」と指摘する。

 なお、「ツールを入れるだけ」では失敗することは明らかだ。「データ利活用プロジェクトは長期的な投資であると理解し、プロセスを理解して段階的に進めることも重要だ」(永田氏)

 後編では日本テレビグループの事例を取り上げ、プロジェクト進行段階における“壁”の乗り越え方を見ていく。

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