「オラクル・デジタル」6年目の現在地 “コト売り”に舵を切る同社の取り組みWeekly Memo

DXに取り組む企業が自らデジタルビジネスを展開していくためには、どうすればよいのか。日本オラクルのデジタルビジネス部隊である「オラクル・デジタル」の活動から探りたい。

» 2022年10月03日 13時00分 公開
[松岡功ITmedia]

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業にとっては、社内業務のデジタル化を進めるだけでなく、自らデジタルビジネスを展開していくことが大きなテーマだ。どうすればよいのか。

デジタル技術を駆使した「オラクル・デジタル」とは

 そんな企業の要望に応えるべく、日本オラクルで5年前から独立した組織として活動してきた「オラクル・デジタル」の事業が好調に推移しているという。2022年9月30日に同事業の今後の戦略について、同社本社で記者説明会を開いた日本オラクルの中村庸介氏(理事 オラクル・デジタル統括)が、倍増以上の年間成長率で推移していることを明らかにした。

日本オラクルの中村庸介氏(理事 オラクル・デジタル統括)

 中村氏はOracleのクラウド基盤サービス(IaaS/PaaS)である「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)について、業種や規模を問わず日本全国の企業や団体を対象としてデジタル技術を駆使したビジネスを展開するオラクル・デジタルの活動を中心に話した。DXに取り組む企業が自らデジタルビジネスを展開する上でヒントになると感じたので、筆者が興味深く感じた点を紹介したい。

 オラクル・デジタルは当初、全国の中堅・中小企業を対象に同社のクラウドサービスをデジタル営業によって広めることを強調していたが、現在ではデジタルビジネスを前面に出し、「企業の規模や業種は問わない」としている。実際には中堅・中小企業も引き続き対象としているが、「コロナ禍の影響で企業の規模や業種を問わず、デジタルビジネスへの関心が大いに高まった」(中村氏)ことが背景にあるようだ。

 オラクル・デジタルの概要には、日本オラクル本社に設けられた同組織の活動拠点が紹介されている(図1)。同組織が発足した5年前、メディアに公開されたこの拠点に筆者も訪れたが、今回あらためて見ると、規模も設備も大幅に増強されている。デジタルビジネスに携わる従業員のモチベーションを考えると、企業はコロナ対策も含めてオフィス環境にもっと注視すべきではないか。同社の最新のオフィスを見てそう感じた。

図1 オラクル・デジタルの概要(出典:日本オラクルの会見資料)

 ちなみに、オラクル・デジタルが本格始動したタイミングで当時の事業責任者に単独インタビューした2018年7月30日公開の本連載「Oracle Digital本格始動 オラクルは中堅・中小企業のクラウド活用に貢献できるか」に記しているので参照いただきたい。デジタル営業については当時から、マーケティングオートメーションを導入したデジタルマーケティングやSNSなどを使ったソーシャルセリング、Webカンファレンスによるライブデモなど、最新技術を駆使した取り組みを実施している。中村氏によると、「コロナ禍で急速に普及したWeb会議システムも当初から積極的に使っていた」という。

クラウドを売るだけでなくノウハウやナレッジも伝授

 オラクル・デジタルの現在のミッションについて、中村氏は「DXを目指すお客さまを幅広く支援」「デジタルネイティブなお客さまの競争力強化に向けた支援」の2つを挙げた。前者はDXに取り組む「既存の企業」、後者はデジタルネイティブな「スタートアップ企業」と捉えれば分かりやすい。企業の規模や業種ではなく、デジタルをキーワードに企業を2つのタイプに分けてターゲットを明確にした形だ。

 とはいえ、企業の規模や業種に執着しなくなったわけではない。中村氏はオラクル・デジタルの活動指針として「あらゆる企業の変革ライフサイクル全てをサポートする」ことを掲げた。その内容を端的に説明したのが、図2だ。

図2 オラクル・デジタルの活動指針(出典:日本オラクルの会見資料)

 左側は「あらゆる企業」を示した図で、企業の規模やパートナーなど、スタンスと広範な業種をマトリクスでカバーするとしている。右側は「変革ライフサイクル全て」を示した図で、従来の企業(既存の企業)はDXによってデジタル企業になり、次世代の企業へ向かう一方、デジタルネイティブ企業(スタートアップ企業)はブレークスルーを果たすことで次世代の企業に変身する。こうした動きをオラクル・デジタルが「サポートする」としている。

 なぜ、デジタル・オラクルにこんなことができるのか。中村氏は次のように説明した。

 「オラクルがこれまでアプローチできていなかったお客さまに対し、クラウドの提案に当たって『どんなことに困っておられるか』『どうすればその悩みを解消できるか』といったことをこの5年間、デジタル技術を駆使して丁寧にお聞きしてきた。今ではお客さまの声があらゆる業種や規模で情報として蓄積され、共通のテーマもどんどん浮き彫りになってきた。お客さまの要望を熟知した上で最適なソリューションを提案できることが、私たちの最大の強みだ」

 さらに、こう続けた。

 「このところ、DXによってデジタル企業に変身したいというお客さまから相談をいただく機会が急増している。その要望に対し、私たちはクラウドをお薦めするだけでなく、オラクル・デジタルそのもののノウハウやナレッジを伝えて活用していただけるように取り組んでいる」

 今回の会見で、筆者が最も興味深かったのはこの発言だ。まさしく「モノだけでなくコトを売る」ビジネスである。モノとコトの話はかねてよく耳にするが、デジタルの世界では特に重要なアプローチだ。5年を経て、オラクル・デジタルのビジネスが変わろうとしていることを実感した。これからデジタル企業を目指す企業にとってもこの点は勘所だろう。

 では、オラクル・デジタルは、モノだけでなくコトを売るに当たってどのように取り組んでいるのか。その一端を示しているのが、図3だ。

図3 オラクル・デジタルの「モノだけでなくコトを売る」ビジネスの一端(出典:日本オラクルの会見資料)

 全体としては「お客さまにベストの選択肢を提供する」オラクル・デジタルのPRではあるが、「今取り組まれている活動」「顕在化しつつある課題」「オラクル・デジタルが提供する価値」として列記されている内容は、ユーザーからみると対処すべき「コト」である。この図の内容に5年を経たオラクル・デジタルのノウハウでありナレッジの蓄積を感じた。

 クラウドだけでなく自らのノウハウやナレッジも提供し始めたオラクル・デジタルは数年後、オラクルのビジネスの大きな柱になっているのではないか。そう感じた会見だった。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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