一方、イノベーションを起こすためのテクノロジーの要件として、今回のイベントでデルが強調したのは「マルチクラウド」だ。同社が定義するマルチクラウドは、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド(オンプレミスを含む)、コロケーションクラウド、エッジクラウドを対象としている。
説明役として登場したDellのジョン・ローズ氏(グローバルCTO)は、マルチクラウドについて次のように述べた。
「マルチクラウドは、柔軟な利用環境が求められるDXの最も重要なテクノロジーだ。しかし、現状では多くのマルチクラウドが無計画なまま使われている。その結果、複数のクラウドが縦割りの利用状態になっている企業も多い。これではクラウド間でデータを相互利用できず、エッジもそれぞれのクラウドに散在し、セキュリティモデルもバラバラで、全体を一つのシステムのように使おうとしても使えない」
こう指摘した上で、同氏は次のように話した。
「そこで、私たちはマルチクラウドを一つのシステムとして使えるようにするために『マルチクラウド・バイ・デザイン』を提唱している。マルチクラウドを計画的にデザインした形で使えるようにしようというものだ。これによって一貫した運用環境やセキュリティモデルの下でデータを保護し、既存のスキルセットも活用でき、開発者にとっても生産性を向上させられる。こうした形で、個々の企業にとって最適なマルチクラウドプラットフォームの実現を支援したい」(図2)
こうしたローズ氏の説明を受けた形で、デルの大塚俊彦氏(社長)も次のように意気込みを語った。
「お客さまのマルチクラウドを最適化する上で最も重要な要件は、ビジネスの成果をしっかりと上げられるようにすることだ。そのために、日本においてもマルチクラウド・バイ・デザインの考え方に基づいて、お客さまのDXによるイノベーションを支援し、さらには共創していけるようにしたい」
誤解のないように説明すると、Dell自身はAmazon Web Services(AWS)などのようなパブリッククラウドサービスは提供していない。その同社がマルチクラウド戦略を強調しても「ピンと来ない」という人も多いだろう。
同社が進めるマルチクラウド戦略は、先述した定義に基づいてマルチクラウドを構築し、利用する際に必要となるプロダクトやサービスを取りそろえて、顧客の多様なマルチクラウドニーズに応えていこうというものだ。つまり、パブリッククラウドサービスのような自前で用意できないものは、それこそAWSなどから調達すればよいというスタンスだ。それを象徴したのが、マルチクラウド・バイ・デザインという考え方である。
以上、先に述べた3つの要件と、テクノロジーの要件としてマルチクラウドをピックアップしたが、これらによって単にDXを支援するのではなく、「DXによるイノベーションを支援する」とのメッセージを打ち出したところに、デルの一歩踏み込んだ心意気を感じた今回のイベントだった。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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