「スサノオ・フレームワーク」って何だ? IPAのDX実践手引書レガシーシステムは「ヤマタノオロチ」

IPAによると、日本企業のDXは進んでいるものの、部門横断的にDXを推進できるレベルに達していない企業は8割以上存在する。IPAはDXにまだ取り組んでいない企業や、取り組み途上にある企業を対象に、「先進的にDXを進める企業は課題をどう克服したのか」について事例を紹介する実践手引書を公開した。

» 2022年10月28日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 情報処理推進機構(IPA)は2022年10月26日、日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目指して2021年11月に公開した「DX実践手引書 ITシステム構築編」に、事例や技術要素の解説を追記した「完成第1.0版」を公開した。

肥大化したシステムを再生する「スサノオ・フレームワーク」

 「DX実践手引書 ITシステム構築編」は、DX未着手または途上企業の担当者を技術的側面から支援する内容だ。今回の完成版は、DXを実現するためのITシステムとそれを構成する技術要素群の全体像を「スサノオ・フレームワーク」として提示した。

 スサノオ・フレームワークとは、モノリシックで複雑化、肥大化したシステムを「ヤマタノオロチ」に例え、「それらを一つ一つ切り離し、使える部分は形を変えて再生させることで、害となっていた存在を価値のある存在に変化させる」という思いを込めた名称だ。

 同手引書は、スサノオ・フレームワークとクラウドやIoT(モノのインターネット)、APIといった技術要素の関連を追記するなど改訂を続けてきた。今回公開した完成版にはDXに先行して取り組む企業がぶつかった課題の克服事例や、技術要素としてのAPI活用事例とAPI全体管理、アジャイル開発の解説が追記されている。

 完成版の主なポイントは以下の通りだ。

DX実践における課題と克服に向けた取り組み、結果を整理

 DXを先進的に進めている企業でも、取り組みや施策が最初から問題なく進んだわけではなく、試行錯誤を繰り返し、乗り越えたケースが多いことから、DX先進事例5社へのヒアリング調査を踏まえ、ぶつかった課題とそれを乗り越えるための取り組みと結果を整理した。

 具体的には、システム開発の課題や、社内変革の地盤固めに関する課題を克服した5つの事例を紹介している。

  • (1)試みはしたが、業務の電子化が定着しなかった(製造業 A社)
  • (2-a)システム開発に技術的な壁が存在した(製造業 B社)
  • (2-b)システム開発に技術的な壁が存在した(非鉄金属業 C社)
  • (3)事業の変革を進める人材が不足していた(サービス業 D社)
  • (4)トランスフォーメーションへの道筋が見通せなかった (化学工業 E社)

 例えば作業の内容記録を手書きで倉庫保管していた製造業A社が、「外部リソースの活用」とそれによる「新しい開発手法の適用」によりDXを実現するまでの試行錯誤を1枚の図で表現している(図1)。

図1 試行錯誤の取り組みと結果、要点のまとめ(製造業 A社の事例)(出典:IPAのプレスリリース)

API活用企業の事例を紹介

 APIを活用している国内企業4社の事例を「背景・課題・ニーズ」や「取り組みの工夫点とその効果」で紹介するとともに、4社の共通点とAPI管理ツール提供企業へのインタビュー結果を基に「API全体を管理する考え方」を整理した(図2)。

図2 API全体管理(出典:IPAのプレスリリース)

 ここでは、多数のAPIを全体管理するための考え方を「技術的な観点」と「組織的な観点」に分けて整理している。

 技術的な観点では、API利用側とAPI提供側の間に位置し、API群の管理や実行時の振る舞いを容易にする「APIゲートウェイ」を中心に、APIの開発を支援する「API開発支援機能」やAPIの動作を監視する「API監視機能」について説明している。

 組織的な観点では、企業内にAPIを全体的に管理する役割を持った組織(API管理者)を作ることが望ましいとする。その上で、API管理者として推進が必要な「標準化の推進」「セキュリティ強化」「パフォーマンス改善」などを解説している。

 また、スサノオ・フレームワークの8つの領域ごとに、APIを活用する際に考慮すべき内容もまとめている。例えば、「独自アプリケーション」領域は、顧客向けにサービスを提供する領域だ。他領域と比較すると新規にAPIを開発して活用するケースが多いことから、将来的にさまざまなビジネスに対応できる構成にする「APIファースト」の考え方が重要であるとしている。

アジャイル開発の事例を示す「アジャイル開発の家」

 顧客に価値のあるソフトウェアを早く、継続的に提供するためのアプローチである「アジャイル開発」について概要から効果、考慮点、先進事例まで詳述している。

 IPAはアジャイル開発について「価値観や原則であり、ソフトウェア開発手法であり、ビジネス手法でもある複雑な概念でもある」とし、その概念構造を「アジャイル開発の家」として整理している。

図3 宿泊業・飲食サービス業B社のアジャイル開発の家(出典:IPAのプレスリリース)

 上の図は、家の土台として組織文化があり、2本の柱として人間中心と技術の尊重という価値観があり、屋根としてビジネス価値の最大化という目的があり、その家の中で高速仮説検証サイクルなどの活動を行うことを示している。

 完成版では、アジャイル開発の先進的な取り組み事例として、内製化にシフトした事例やリーン・スタートアップの事例など、4社それぞれの特徴を整理した。

 IPAが2022年8月に公開した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2021年版)」によると、日本企業のDXは進んでいるものの、全社戦略に基づいて部門横断的にDXを推進できるレベルに達していない企業が8割以上存在するという。IPAは、完成版が多くの企業に活用されることで、ITシステムの変革がより確実かつ適切に進み、DXが進むことを期待するとしている。

 DX実践手引書 ITシステム構築編(完成第1.0版)は、IPAのWebサイトからダウンロードできる。

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