最適化とはすなわち「複雑な社会課題を定式化し、膨大な組み合わせの中から高速に最適化する」ことだ。
最適化には、持続可能な社会を実現する最適化問題を解決する技術という観点で「リアルタイムな最適化」と「ベストな手法を自動統合」するという2つのポイントがある。「最適化は多くの場合、リアルタイムに実施することが重要になる。最適化の手法はさまざまなので、ベストなものを組み合わせて自動化することが求められる」(西原氏)
2つのポイントを二軸にして描いたのが、図4だ。
「リアルタイムな最適化」と「ベストな手法を自動統合」のそれぞれでNECが持つ技術が記されている。
社会課題の最適化問題を解決する技術の例としては、「NEC Vector Annealingサービス」と「最適化支援コンパイラ」が挙げられる。前者は、膨大な組み合わせの中から最適な選択肢の候補を現実的な時間で選び出す疑似量子アニーリングのクラウドサービスだ。後者は、古典的コンピュータ/量子コンピュータを問わず、最適化ツールの性質ごとにふさわしい条件式に自動で変換して最適化プログラミングを容易にする開発環境を提供するものだ(図5)。
対処、制御は「人に合わせた根拠の説明と対話によって、意思決定者の納得性と信頼性を高める」ことが重要になる。
意思決定者が納得できる対処、制御としては「人と協働するロボット制御」「人が理解できる説明性付与」「利害の異なるAI同士の自動交渉」が挙げられる。自動交渉は人とAIやAI間での自律的調整によって、企業間での取引を瞬時に最適化できるようになる(図6)。
プラットフォームとはすなわち「データからシステムに至るトータルなトラスト(信頼性)と高効率で環境性能に優れたプラットフォーム」のことだ。
プラットフォームでは、トータルなトラスト実現と経済安全保障の観点から「オープンなICTシステムの安全性・信頼性担保」や「国産量子暗号通信」、デジタルツインを支える高速大容量通信の観点から「Beyond 5G 分散MIMO(無線通信高速化技術)」「マルチコアファイバーによる大容量海底光伝送」「アプリアウェア、IT/ネットワーク制御」といったNECの取り組みが挙げられる(図7、図8)。
筆者はデジタルツインを4つの要件で捉える考え方を今回のNECの会見で初めて聞いた。せっかくの機会なので、会見の質疑応答でデジタルツインと同じデジタル空間として注目を集めている「メタバース」との関係について聞いてみた。
西原氏は、「大いに関係があると見ている。ただ、前提として、明確な目的のもとでシミュレーションを主体にデジタル空間を活用するデジタルツインに対して、メタバースはデジタル空間で新しい社会を創っていこうという技術であることを踏まえる必要がある。その上で、メタバースも実世界とつながる必要があるので、今回お話しした4つの要件が求められるようになる。とりわけ、『リアルタイムな最適化」と『ベストな手法を自動統合』から見た要素技術は今後、一層注目されるようになるだろう。当社としてもそこに大いに貢献していきたいと考えている」と答えた。
あらためて、今回聞いた4つの要件が今後のデジタル社会に向けた課題解決のための技術要素として重要であると感じた。デジタルツインの活用事例にさらに注目したい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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