IBMの狙いはクラウド市場競争の「ゲームチェンジ」 同社の「業界クラウド」戦略を読み解くWeekly Memo(1/2 ページ)

IBMが業界ごとのDX共通基盤の展開に注力している。いわば「業界クラウド」戦略で、注目すべきはマルチIaaSへの対応を打ち出し始めたことだ。IBMの思惑はどこにあるのか。IT市場への影響はどうか。筆者なりに探ってみたい。

» 2022年12月19日 14時30分 公開
[松岡功ITmedia]

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 「IBMは現在、お客さまとのDX(デジタルトランスフォーメーション)の共創に向け、業界ごとのDX共通基盤となる『デジタルサービスプラットフォーム』(以下、DSP)を展開している。DSPの基盤は『IBM Cloud』だが、今後は他のIaaS(Infrastructure as a Service)でも動くようにしていく」

 日本IBMでIBMフェローの肩書を持つ二上哲也氏(執行役員IBMコンサルティング事業本部CTO)は、同社が2022年12月13日に開催した年次イベント「Think Japan」の講演におけるDSPに関する説明でこう話し始めた。

日本IBMの二上哲也氏(IBMフェロー 執行役員IBMコンサルティング事業本部CTO)

 「今後は他のIaaSでも動くように…」と聞いて、筆者は思わず身を乗り出した。初めて聞く話だったからだ。

 直後、同社広報に確認してみたところ、「正式には発表していない」とのことなので、本稿では二上氏の講演内容のエッセンスを紹介するとともに、IBMの思惑はどこにあるのか、IT市場への影響はどうかを筆者なりに探ってみたい。

IBMの「業界クラウド」戦略とはどんなものか

 IBMが注力しているDSPとは、業界や事業特性ごとに共通して必要になるDXの共通基盤を提供するソリューションのことだ。

 同社があらかじめ構築、テストした業界別の基盤とガイドと運用ノウハウを提供することで、顧客のDXシステム構築の効率化や堅実な運用を支援する。さらに、業務の共通部分をプラットフォームとして提供する。そこに顧客が自社の強みを追加していくことでサービスやシステムを作る「共創」をコンセプトとしている。DSPは「業界クラウド」とも呼ばれ、IBMは現在この戦略をクラウド事業の柱に据えている(図1)。

図1 DSPによって「業界クラウド」を推進(出典:「Think Japan」の講演資料)

 二上氏はDSPの概要を説明した後、業界ごとの事例として「すでに約30の金融機関のお客さまに使っていただいている」という金融サービス向けDSPについて紹介した(図2)

図2 金融サービス向けDSPの概要(出典:「Think Japan」の講演資料)

 構成としては、下部の「DSP基盤・運用サービス」、左上の「業務マイクロサービス」、右上の「基幹系連携」からなり、「汎用(はんよう)的な業務マイクロサービスは現時点で200種類ほど用意できている」(二上氏)とのことだ。

 さらに、「DSPはモバイルアプリなどを作るときの基盤としても活用できるので、開発のスピード向上やコスト削減を図れる」と胸を張った。

 IBMとしてはこの金融サービス向けDSPが業界クラウド戦略の第一弾となる。従って、マルチIaaSへの対応もこの領域から動き始めている。その内容は後ほど説明しよう。

 二上氏は続いて、ヘルスケアDSPと保険業界の連携について、次のように紹介した(図3)。

図3 ヘルスケアDSPと保険業界の連携(出典:「Think Japan」の講演資料)

 「当社は多くの病院に電子カルテのシステムを提供している。現状では病院で診察された内容を保険会社に申請する際には紙で書類を用意する必要がある。せっかく電子化された電子カルテの情報があるので、病院と保険会社をデジタル連携すれば利便性が上がると考え、業界をまたがったDSPの構築を進めている」

 IBMではこの他、図1で示したように、資源循環や二酸化炭素(CO2)削減などに特化したサステナビリティ分野のDSP、流通業界における需要予測などのための流通DSP、スマートファクトリーを実現するための製造DSP、さまざまなAI(人工知能)の機能を企業で使いやすいパッケージにしたエンタープライズAIのDSPなどをラインアップしていく計画だ。

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