シリコンバレーに乗り込んだNEC「4年半」の成果 グローバルを見据えた新事業開発の進め方とはWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年01月23日 15時50分 公開
[松岡功ITmedia]
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新事業開発のプロセスでシリコンバレー流を採用

 図4に示したのが、NEC Xの新事業開発のプロセスだ。井原氏の説明を基にこの図の内容を以下に記す。

図4 NEC Xの新事業開発のプロセス(出典:NECの会見資料)

 全体の見方としては左から右に移行する形で、左端にある「技術・製品開発」と「事業開発」が2軸となる。その左では、リクルートした客員起業家(EIP:Entrepreneur In Residence)と、NECの技術や市場のニーズやトレンドを踏まえた新事業とのマッチングを模索する。マッチングが成立すれば、図の中央にある「顧客発見」段階に移行する。

 この段階では「新事業の顧客は誰か。その顧客の課題は何か」を起点にしたヒアリング調査を100人規模の関係者に2〜3カ月かけて実施する。その結果、事業として有望であればプロジェクト化し、「顧客実証」を3〜6カ月かけて行う。実際にプロジェクト化するものは全体の3割程度とのことだ。この割合は低いようにも受け取れるが、井原氏によると「Fail Fast(早く失敗する)を意識したプログラム運営によって、チャレンジの機会を増やすとともに投資効率を高めている」という。

 顧客実証ではさまざまな角度から事業化に向けて分析し、事業化が決まれば出口戦略に沿って最適な展開を図るという形だ。

 同氏によると、「こうした新事業開発のプロセスは、実はシリコンバレーでは標準的な取り組みだ」という。「郷に入っては郷に従え」ということだろう。

 では、NEC Xのシリコンバレーでの取り組みは、日本企業の典型的なパターンとどう違うのか。「アウトバウンドかインバウンドか」「技術投資かCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)か」「社外起業家か社内起業家か」といった点が挙げられる(図5)。

図5 NEC Xの新事業開発の特徴(出典:NECの会見資料)

 設立から4年半たったNEC Xは、現在40件のプロジェクトが進行中で、事業化したのは9件だ。同社は2025年度までに累計20件以上の事業化を計画している。図6が、現在事業化した主なスタートアップ企業を記したものである。このうち、Flyhound社については今回の会見で発表となった。

図6 現在事業化した主なスタートアップ企業(出典:NECの会見資料)

 筆者がNEC Xの新事業開発に向けた活動を通じて印象強く感じたのは、「多彩なエコシステムを活用していること」「Fail Fastを意識した取り組みであること」「アウトバウンド型イノベーションの推進」の3つだ。同社の活動は他の日本企業にも大いに参考になるところがあるのではないか。

 ちなみに、NECが2018年6月にNEC X設立の発表会見を開催した際、当時NEC執行役員でNEC Xの初代CEOに就いた藤川修氏(現・執行役員常務兼CFO)がNEC Xの社名について「NEC Xの『X』には、シリコンバレーにおけるアクセラレートを表すX(エックス)、クロス(X)ボーダーでの事業開発、これらにNECの技術を掛け合わせる(X)という3つの思いを込めた」と説明していた。さらに、事業開発へのスピード感などNEC自体のトランスフォーメーション(変革)を意図した「X」でもあるのではないか。今回の会見を聞いてそう感じた。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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