DX先進企業と「そうでない企業」は何が違う? KPMGの最新レポートから見えた「7つの特徴」Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年01月30日 14時15分 公開
[松岡功ITmedia]
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デジタル成熟企業ならではの「7つの特徴」

 4つ目は「あなたの会社は、クラウドジャーニーのどこに位置付けられるか」という質問への回答を集計した結果だ(図4)。

図4 「あなたの会社は、クラウドジャーニーのどこに位置付けられるか」への回答の集計結果(出典:KPMGコンサルティングの会見資料)

 すなわち、クラウド化の推進状況を尋ねた質問だ。この結果で注目されるのは「クラウドへの移行を完了し、現在は継続的な最適化とモダナイゼーションに注力している」と「基幹系業務をクラウドに移行している」との回答を合わせると、グローバル、日本ともに88%に達したことだ。これについて尹氏は「企業のDXにおいてクラウド活用はもはや必須だ。クラウドはDX推進の基盤と言っていい」との見解を示した。

 この結果は他の調査結果や筆者の肌感覚からいうと割合が少々高いように感じるものの、筆者も尹氏の見解に全く同感だ。

 5つ目は、「新しいデジタル技術を採用する上で、最も大きな課題は何か」という質問への回答を集計した結果だ(図5)。

図5 「新しいデジタル技術を採用する上で、最も大きな課題は何か」への回答の集計結果(出典:KPMGコンサルティングの会見資料)

 ここで注目されるのは「重要な役割(データサイエンティストやエンジニア)を担う人材の不足」や「新たなシステムの調達や必要な人材を獲得するためのコストの高さ」といったように、人材不足に関する課題が上位を占めていることだ。いわゆる「DX人材」が足りないというのが、最大の課題となっている。

 また、5番目の「変化やイノベーションを受け入れないリスク回避型の企業文化」について、日本の割合が高いのも目立つ。これについて尹氏は「企業文化におけるリスク(回避)は日本特有の課題。注意深く捉える必要がある」と警鐘を鳴らした。

 こうした調査結果を基にした同レポートは、デジタル成熟企業ならではの特徴として次の7つを挙げている。

  1. 組織間の風通しを良くするため、サイロ化を解消している
  2. 人材不足の解決に自ら取り組んでいる
  3. クラウドに対するステークホルダー間の密接な連携を構築している
  4. サイバーセキュリティの専門家が、早い段階でテクノロジー選定や社員研修に必ず関与するようにしている
  5. 顧客の声を生かした先端テクノロジー戦略を描いている
  6. 顧客体験を向上させるため、プラットフォームプロバイダーを変更する準備を進めている
  7. 臆せず新たな手法を賢明に取り入れている

 それぞれの説明については先述の発表資料をご覧いただくとして、ここでは上記から3つ取り上げて考察したい。

 まずは、1の「組織間の風通しを良くするため、サイロ化を解消している」について、KPMGは「デジタル成熟企業ではテクノロジー投資において無駄が生じることを回避するため、組織のサイロ化を解消し、従業員からのフィードバックを通じて主要なステークホルダーの意見を継続的に聞き、それをプロジェクト運営に生かしている」と説明している。これは「全社を挙げてDXに取り組む体制をとっている」ということだ。いわば「DXの基本」である。

 次に、2の「人材不足の解決に自ら取り組んでいる」について、同社は「デジタル成熟企業ほど、従業員が仕事を通じて成長していると実感できるように工夫している」と説明している。筆者がこの点に注目したのは、従業員一人一人が成長を実感できる手段としてDXを活用するという発想だからだ。「DXで経営改革を進める」というより「DXを経営改革の手段として利用する」。この工夫については、具体的な事例が今後どんどん登場することを期待したい。

 最後に、5の「顧客の声を生かした先端テクノロジー戦略を描いている」について、同社は「デジタル成熟企業は顧客にとって最も価値のある成果を生む可能性に賭け、そうした機能を持つ先端テクノロジーに資金を投じている」と説明している。この点について筆者もさまざまな取材を行ってきた観点から一言述べたい。「DXはすなわち経営改革である」ことは本連載でもたびたび述べてきたが、DXで最重視すべきは顧客接点の強化、つまり「CXの向上」だと筆者は考えている。

 DXに関する企業取材を通じて最近気になるのは、内向きの改革に力点を置いているケースが多いことだ。改めて、自社の存在意義に基づいたDXを進めてもらいたい。そうすると、DXの核心はCXであることが見えてくるのではないだろうか。どんな改革も「顧客から見てどうか」が起点ではないかということを、この機会に主張しておきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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