“紙まみれ”“残業盛りだくさん”だった下妻市が得た「予想外の効果」 「Cybozu Media Meetup vol.11」レポート【後編】

少子高齢化が進む中、地方自治体は「職員数が減少する中で多くの課題にいかに対応するか」という難題を突き付けられている。こうした中、デジタル化によって業務効率化と住民サービス向上の両立を図る2つの自治体を紹介する。

» 2023年01月30日 12時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

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 世界で最も高齢化が進んでいる日本の中でも、特に地方には若年人口の流出が続き、少子高齢化が猛スピードで進展している自治体が多い。そうした自治体では住民数減少に伴って自治体職員数の減少を見込む一方で、老朽化するインフラ設備や高齢化する住民への対応など取り組むべき課題は多岐にわたる。

 こうした中、業務効率化と住民サービス向上の両立を図るべく、デジタル化に取り組む自治体もある。

 サイボウズが開催したオンラインセミナー「Cybozu Media Meetup vol.11」(2022年12月16日実施)では、サイボウズによる自治体DXの支援の枠組みとともに旭川市(北海道)、下妻市(茨城県)の取り組みが紹介された。後編となる本稿は下妻市の取り組みをまとめる。

「現場主導でアプリを開発するツールが必要だった」

 下妻市デジタル推進室長の小林正幸氏は、同市市役所の業務改善について「現場の自主性」を強調しつつ説明した。映画『下妻物語』(中島哲也監督、2004年公開)の舞台となった同市は、筑波山の西側に位置し、市内には「筑波サーキット」がある。人口は約4万人で東京から約70キロの距離にある。

下妻市の小林氏 下妻市の小林氏

 小林氏は役所の業務が旧態依然であることに危機感を覚えていた。業務は紙ベースで残業は減らずDX(デジタルトランスフォーメーション)は進んでいなかった。「特に、相談業務やプロセス管理など『Microsoft Excel』では管理できない業務が増え続けていた。システム導入はコストと時間の問題で進まず、課題が山積していた」

 小林氏は市役所のシステム担当を長く務めた後、業務部門への異動を経て2022年4月にDX室長としてシステム開発業務に復帰した。小林氏の復帰と同時に、庁内のDXに本腰を入れることになった。DX計画の策定や社員研修と並んでアクションの目玉となったのがシステムを内製化するアプリの導入だ。

 「ITベンダーに頼らずに現場主導でアプリを開発するツールが必要だった。各種ツールを検討した結果、自治体による導入実績が豊富なサイボウズの『kintone』が最適だと判断した。30日間の無料トライアルに申し込もうとしたところ、1年間無料キャンペーンの告知が届き、『これは運命だ』と(笑)。すぐに申し込んだところ、対象自治体となった」(小林氏)

 kintoneの採用が決まった下妻市は、2022年8月後半の運用開始を目指して導入体制の整備を進めた。kintoneにはチーム単位のコミュニケーションに使う「スペース」という機能がある。小林氏は全ての課に対して所属メンバーのみ入室可能な非公開スペースを設定した。

 「まずはkintoneを自由に使ってもらうことが重要だと考えて、部署内に使用を限定したアプリを作成してもらうことにした。将来的にはアプリを整理する手間が発生するが、アプリの便利さを知ってもらうことを優先した」(小林氏)

 また、デジタル推進室によるkintone研修会を2022年8月から計20回以上開催し、延べ160人以上が参加した。「無料だから使うのではなく、業務アプリとして定着しなければ意味がない。そのためにはいかに職員に活用してもらえるかが重要だ。(kintone研修会開催に当たっては)これまで実施してきた研修のノウハウを生かしてkintoneの定着を目指した」(小林氏)

 下妻市にはすでに稼働しているアプリが多く存在する。小林氏その中から2つのアプリを紹介した。

保健センターのWebフォーム

 下妻市の保健センターは、kintoneを積極的に利用している。アンケートや申し込み用のアプリをkintoneで作成し、トクヨモが提供するkintoneと連携するWebフォーム「FormBridge」で利用者に向けて公開している。

保健センターによるアプリ作成事例(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料) 保健センターによるアプリ作成事例(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料)

 この取り組みによって、保健センターの利用者は時間を気にすることなく申し込みが可能になり、職員もいつでも回答できるようになった。「電話応対や入力業務にかかる時間が軽減された」と小林氏はアプリ導入の効果を明らかにした。

 下妻市では、小学校入学前の5歳児を対象とした発達相談を実施している。これまでは相談に先立って保護者が入力するアンケートを紙からアプリに移行させ、PCやスマートフォンからも入力できるようにした。「利用者からは好評だ。職員も自分たちが使いやすいようにアプリが作れることにメリットを感じている」(小林氏)

投票速報アプリ

 2つ目のアプリは、小林氏自らが作成した選挙における投票速報アプリだ。

選挙における投票速報アプリの作成事例(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料) 選挙における投票速報アプリの作成事例(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料)

 選挙時には各投票所から投票者数のデータが送られてくる。従来は電子メールで送られてきたため手作業で集計しなければならず、入力ミスの恐れがあった。これをkintoneとFormBridgeによってシステム化したことで、投票所の担当者がフォームに投票者数を入力するだけで投票率が計算できるようになった。同システムは2022年に実施された茨城県議会議員選挙(投票日:同年12月11日)に実践投入されて、好評を得たという。

「若手に後れを取るまい」

 「研修会を重ねるごとに、若手を中心にアプリの利用が広がるだけでなく、『若手に後れを取るまい』と中堅以上の職員にも奮起がみられた。これは予想外の効果だ。従来の仕事を変えたいという若い力が庁内全体を動かそうとしている」(小林氏)

 kintoneの全庁利用をきっかけに変革に積極的な職員が増え、庁内アンケートの回答率も上がっている。「従来のスタイルを変えてDXやBPR(Business Process Reengineering)を推進しやすい環境ができつつある」と小林氏は胸を張る。

 下妻市は2023年5月に新庁舎が開庁する。新庁舎には最新のITインフラが用意され、DXを推進しやすい環境が整備されている。小林氏は、庁内のペーパーレス化や市民サービスの向上がさらに進むと期待すると同時に、2023年度から本格化するBPRを進める業務改善ツールとして、さらにkintoneの活用を進める予定だという。

 今回紹介した2つの自治体をはじめ、サイボウズは今後も自治体の独自課題、共通課題それぞれに対応した支援を実施し、DX推進に注力するとしている。サイボウズの瀬戸口 紳悟氏(営業戦略部 公共グループ)は「2022年度成功したキャンペーンは今後も継続していきたい。またテンプレートの公開、コミュニティーのさらなる拡充など、情報のシェアにも力を入れていく」と、今後の抱負を語った。

前編の「職員高齢化に悩む旭川市が“日本一のデジタル都市”を目指す理由」はこちら

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