Web3がビジネス臭くなる? 現場の声は「なんか違う」

エンタープライズの間でWeb3に挑戦する企業が増えている。認知拡大にこれらの取り組みは欠かせないが、Web3企業は少し違う意見も持っているようだ。

» 2023年03月08日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 Web3への注目は高まっている。実際に、エンタープライズにおけるWeb関連サービスの開発やWeb3スタートアップとのパートナーシップ発表なども珍しくなくなった。一方、Web3の思想を重要視する業界のプレイヤーからは「Web3がビジネス臭くなり、本来の思想と離れていってしまう」という意見も聞く。本稿は、Web3特化型インキュベーターであるFracton Venturesの共同設立者である鈴木雄大氏と亀井聡彦氏に、DAO(分散型自立組織)の魅力や現状、エンタープライズ参入への意見を聞いた。

DAOのメリット・デメリットと未来

 Fracton Venturesは2021年の創業以来、Web3のプロトコルやプロジェクトをグローバルで育成している。この取り組みの背景には、DAOを含むWeb3への期待があるわけだが、亀井氏はDAOのメリット・デメリットをどのように捉えているのだろうか。

亀井聡彦氏

 亀井氏はDAOのメリットに「流動性」を挙げる。DAOはグローバル規模でインスタントに組織を立ち上げられ、プロジェクトさえあれが国や国籍に関係なく人材を集められる。これまでは特定のWeb3関係者がDAOに取り組んできたが、近年は認知拡大を受けてさまざまなDAOが世界で誕生している。国などの規制によってはDAOの流動性が損なわれる可能性もあるが、現時点においてこの点は最大のメリットといえる。

 一方でデメリットもある。DAOは新たな概念であるため、規制を含め組織内でのトークン発行や権利保証、金銭やりとりなどはグレーになりがちだ。「DAOであればみな平等」とよく言われるが、DAO内の投票ルールなどによっては平等と言えない状況も生まれる可能性がある。「規制なども含めてDAOが抱えるグレーな部分は今後の課題、デメリットになるでしょう」(亀井氏)

鈴木雄大氏

 DAOはよく「未来の会社の形」と言われることがあり、この背景には「平等な組織体制」「資金調達の容易さ」「誰でも参加できる」などの理由がある。DAOには「課長」「部長」といった階級は存在せず、基本的に参加者全員が平等だ。また、組織の運営に関わる契約や取引は全てブロックチェーンでオープンに管理されるため、組織の透明性が高い。資金調達も「セキュリティトークン」(株式会社で言う有価証券)を発行し、それを購入してもらうことで容易にできる。もちろん株式会社が勝る点もある。例えば組織内で何かを決定するには「ガバナンストークン」を用いて参加者が投票する必要があり、もし自分が投票できない場合はそれを他の参加者に預けられる。この時、仮にリーダー的存在がいれば自然にそこにガバナンストークンが集まり平等ではなくなることも考えられる。また、参加者の投票が必要ということはそれ相応の時間もかかる。法整備も現時点では未熟だ。

 本当に将来的にDAOが現代の株式会社のような立ち位置になるのだろうか。鈴木氏はこの疑問に対し「『必要な場所にDAOがある』という状況になるでしょう」と見解を述べる。

 例えば、「Ethereum」(イーサリアム)で動く「DeFi」(分散型金融)などは、その分散性を保つためにDAOであることが望ましい。このようにDAOであるべき場所はDAOに置き換わり、それ以外の一般組織は株式会社のままというのが同氏の意見だ。組織が無理にDAOになる必要性はなく、適材適所で組織形態を選べるのがベストだ。興味深いのは人材の流動性だ。株式会社であっても近年は副業可能な組織が増え、従業員の働き方なども柔軟になっている。ただ「会社を変える」ことは容易ではない。DAOであれば、自分のスキルが必要なプロジェクトに参画し、そこが終了すれば他のDAOに移るという働き方も可能になる。

 「将来的にはプロジェクトごとに仕事をする人も増えるでしょう。個人の意見としては組織の30%程度がDAOになると思います」(鈴木氏)

世界におけるDAOの現状

 DAOを大きく2つに大別すると、Bitcoinのように仕組みが完成され盤石に機能している「プロトコル型DAO」(仮名)と、あくまで「コミュニティーの進化系」である「コミュニティーDAO」(仮名)がある。海外のDAOは前者のようにプロトコルの実装やトークン活用にフォーカスしている一方で、日本ではコミュニティー型DAOが多い。日本は従来よりオンラインサロンなどのインターネットコミュニティーが多く、それらがDAOを名乗っているだけというケースが多いのが原因だ。

 「Fracton Venturesとしても、前者のように世界のシステムを部分的にDAOのプロトコルが置き換えていくような未来を考えています。コミュニティードリブンなDAOも必要ですが、この点は有識者の中でも賛否両論あります。DAOの定義はまだ定まっていないのが現状です」(亀井氏)

 プロトコルDAOへの取り組みが活発な海外とコミュニティー型DAOが活発な日本。海外と日本はほとんど同時期にDAOに注目し始めたが、その成長の仕方や現状には大きな乖離(かいり)があるようだ。

 しかし、DAOの特徴は流動性にあり「別に国単位で考える必要もないのでは」という意見もある。このような意見に対し鈴木氏は、「『DAOだからできること』を考えると、国単位で組織することにとらわれる必要はないと思います。例えば、世界共通の社会問題に対してDAOならグローバルかつ迅速に取り組めます。つまり、日本のDAOには『グローバル化』が求められていると思います」と話す。

 近年、さまざまなエンタープライズがWeb3関連サービスを発表している。Web3拡大にこのような動きは効果的だが、亀井氏と鈴木氏は一概にこれをポジティブな取り組みとは捉えていない。実際に鈴木氏は取材の中で、「Web3って名前から『最新技術』のようなイメージを持たれがちですが、基本的にはこれまで存在した技術を組み合わせただけです。それにもかかわらず『Web3で国を成長させる』みたいな風潮は違う気がします。Web3の本質的な概念が抜け落ちてワードだけが先行しているのが現状です。そもそもWeb3というからには国からサポートなどは受けない、アンダーグラウンドなサービスのはずですから」と見解を述べた。

 エンタープライズがWeb3に取り組むことは、認知拡大の面でもWeb3企業にメリットがある。一方、ビジネス的観点が強まれば、本来のWeb3の思想や価値が損なわれる可能性があるのも事実だ。

 「Web2.0が主流にあり、ユーザーが使いたければWeb3を使えばよいのです。そこに選択肢の自由があるわけですから」(鈴木氏)

DAO TOKYOとは

 Fracton Venturesは2023年4月13日、日本初となるDAO(分散型組織)特化型カンファレンス「DAO TOKYO」を開催する。同イベントはDAOの有識者を世界中から集め、DAOのノウハウやナレッジを共有することを目的にしている。

 Web3やDAOの認知度やユースケースは拡大している一方で、亀井氏と鈴木氏には「ビジネス化しすぎている」という気持ちがあり、DAO TOKYOでは「居心地の良いフラットなDAOイベント」を目指す。

 「Web3の本質は現代の資本主義の課題を解決することです。一方、現在のWeb3はビジネス面での要素が強くなりすぎてしまい、資本主義の課題をさらに悪化させている気がします。『本来のWeb3ってどんなだっけ』というのを再認識するためにも、何か温かみのあるイベントをやりたいと思い開催を決めました」(亀井氏)

 Web3へ注目するエンタープライズに対して鈴木氏は、「本来のWeb3の目的や価値を理解せず、ただ『ビジネスチャンス』と思ってWeb3事業部などを立ち上げてサービスを作っても良いものはできません。本当にそのサービスがWeb3であるべきかどうかを考えて、本来の価値やメリットを享受できるものが求められています」とコメントした。

 思想だけに偏れば、「一部のWeb3ユーザーのみが使うサービス」になり、ビジネスに偏ればWeb3本来の思想などは忘れられていくかもしれない。これらのバランスをいかに取りながら社会実装を実現していくのか。DAO TOKYOがWeb3企業とエンタープライズ双方にとって、何か新たな視点を得る有益な機会になるかもしれない。

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