SAP Datasphereとは? DataWarehouse Cloudとの違いと「ビジネスデータファブリック」の意義

データ活用のトレンドに対応してSAPが自社SaaSプラットフォームで提供するデータ管理サービスのポートフォリオを刷新した。マルチクラウドに散在するデータをビジネス視点で分析しやすくする。

» 2023年03月24日 08時40分 公開
[原田美穂ITmedia]

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 SAPジャパンは2023年3月22日、データ管理ポートフォリオの新製品として「SAP Datasphere」の提供を開始した。SAP Datasphereは従来「SAP Data Warehouse Cloud」として提供してきたサービスの次世代版と位置付けられる。提供は「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)から行われる。

DataWarehouse Cloudから何が変わるか

 SAP Datasphereには、データ連携やデータカタログ、データモデリング、仮想テーブル構築、データへのアクセス制御、データフローなどの機能が含まれており、さまざまなデータソースを一元化した上でデータ分析基盤である「SAP Analytics Cloud」と接続する。

 今回のポートフォリオ刷新に当たっては「セマンティックモデリング」「データカタログ、品質、オーケストレーション」「データ連携機能強化」の3つが盛り込まれた。セマンティックモデリングはデータにセマンティック情報を付与した上で分析や可視化を前提にテーブルとビューを組み合わせた多次元モデルを作成する機能だ。データカタログはセマンティック情報を生かしたデータ活用促進の基盤と位置付けられる。データ連携機能においては「仮想データアクセス」による複製データへのアクセスや異種データ混在でのリアルタイムデータ連携を実現する。併せてセキュリティやコンプライアンス、データ品質維持に関する機能も盛り込んだ。

SAP Datasphereの機能イメージ。スピーカーはSAPジャパン カスタマー・アドバイザリー統括本部 シニアディレクターの椛田后一氏

 SAPはSAP DatasphereによってSAPシステム群が持つデータとサードパーティー提供データの統合や分析、AI(人工知能)への活用が容易になるとしている。既存のSAP Data Warehouse Cloudユーザーは自動的にSAP Data Warehouse Cloudに移行する。

 SAP Datasphere発表の背景として、SAPジャパンの岩渕 聖氏(ビジネス・テクノロジー・プラットフォーム事業部 事業部長)はマルチクラウドの出現によってビジネスアプリケーションが持つデータが散在し、データガバナンスを維持しにくく、データ統合にまつわる煩雑なタスクが増加している点を挙げる。

 個々の業務領域で個別の施策が進むと、そこで発生するデータを統合する際にデータのコンテクストが抜け落ちやすく、十分に活用できない状況が生まれやすい。SAP Datasphereはこの問題をデータにビジネスコンテキストとロジックを付与する「ビジネスデータファブリック」という概念を導入して解決する。

ビジネスデータファブリックにはメタデータやデータが持つビジネス上の意味などを管理するリソースが含まれる(出典:SAPジャパン発表資料)
自社保有データとサードパーティーデータの連携やマーケットプレースへのデータ提供も実現する(出典:SAPジャパン発表資料)

 データファブリックではなく「ビジネスデータ」を強調するのは、同製品が「ビジネスコンテンツコレクション」と呼ぶビジネスユーザー向けのテンプレートを提供するためだ。同社およびパートナー企業が事前構成済みのダッシュボードテンプレートや指標計算ロジックを「コンテンツパッケージ」として提供する。従来より提供するSAP BW bridge向けのコンテンツパッケージや、「SAP S/4HANA」からのデータ抽出ロジックも含まれる。SAP BTPを介してDataRobotやDatabricksが提供するサービスとの連携も可能だ。

 伝統的なデータマネジメントアーキテクチャはデータの抽出、変換、ロード(ETL)が主流だったが、昨今は事前の変換なしでデータを取り込むELT型のデータ活用が進む。またデータレイクからデータウェアハウスを介して分析する方法だけでなく、「データレイクハウス」と呼ばれるようにデータレイクにデータウェアハウス同等の機能を取り込む手法も生まれている。さらにサードバーティーで生成されたデータを活用して新たな知見を得ようとする取り組みも広がっている。

 このトレンドに対応してさまざまなポイントソリューションが生まれているが、それらとの違いは「ワンプラットフォームで全てを提供できる点にある」と椛田后一氏(SAPジャパン カスタマー・アドバイザリー統括本部 シニアディレクター)は説明する。プラットフォームが共通しているからこそ多様なコンテンツパッケージを提供しやすく、ビジネス要件に応じたデータ活用を実現しやすい点が強みとなるようだ。

SAP Datasphereのデータマネジメントアーキテクチャ(出典:SAPジャパン発表資料)

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