久元氏はまず、ガバメントクラウドの「地方公共団体情報システム標準化基本方針」について、図1を示しながら次のように説明した。
「ガバメントクラウドについてそれぞれの自治体は現在、税務や住民登録、福祉などのシステムを独自に持ち、プライベートクラウドで管理している。今後はそれらを標準化してガバメントクラウドへ移行していく中で、移行過程における標準化作業からガバメントクラウドを利用する方法もある」
そうした中で、神戸市は次のように取り組みを進めたという。
「神戸市は、まず住民登録と共通基盤(データ連携)の独自システムをAWSのガバメントクラウドに移行し、検証している。クラウドへの移行を先行させた形だ。こうした動きは政令指定都市では初めてだ」(図2)。
さらに、ガバメントクラウドへの移行を先行させた中で「効果として分かったことがある。それは安全性だ。現状のプライベートクラウドでも災害時にバックアップを使えるが、住民サービスの復旧に時間がかかっていた。それがガバメントクラウドになると予備サイトがあるので、災害時も直ちに住民サービスを復旧させることができるようになった」と久元氏は説明した(図3)。
一方、デジタル人材の育成については、図4を示しながら次のように述べた。
「内部人材の育成や外部人材を登用することで、外部委託に依存せず、内製可能な人的体制の構築を図りたい。まず、内部人材としてクラウドサービスやネットワーク基盤に精通する職員を養成する必要がある。また、外部から社会人採用あるいはジョブ型雇用によって入っていただく。そうした内外の人材によってプロジェクトチームを組んで内製化を進め、自らの仕事をデザインできる人材を育成し、スピーディーでクリエイティブな住民サービスを提供できるように努めていきたい」
地方自治体の業務システムのガバメントクラウドへの移行は、全体の規模から見て「2025年度末までにめどをつけることができるのか」と懸念する声も多い。しかも行政の業務を担う重要なシステムが多いので、ガバメントクラウドで安定稼働させるまで突き進むしかない。後戻りできない取り組みであることを認識する必要がある。
一方で、筆者が平井氏と久元氏の話を聞いて、改めて感じたことがある。
「地方自治体はアプリケーションベースで独自のサービスを自由にどんどん展開して、それぞれの地域の活性化に役立ててもらう。これが、ガバメントクラウドの基本的な考え方だ」(平井氏)
「内外の人材によってプロジェクトチームを組んで内製化を進め、自らの仕事をデザインできる人材を育成し、スピーディーでクリエイティブな住民サービスを提供できるように努めていきたい」(久元氏)
これこそ、行政DXを推進するガバメントクラウド活用の勘所ではないか。久元氏は「キーワードはクリエイティブ」とも強調した。もっとこの点に着目して、当事者である政府および自治体だけでなく、IT、デジタル業界も懸命に支えたいところだ。行政DXはこれからが正念場である。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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