損保ジャパンが進める「両利きのDX」とは――Google Cloudの講演から探るWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年05月29日 12時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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損保ジャパンが進める「守りのDX」と「攻めのDX」

 Google Cloudのサービスを利用してDXを進めている損保ジャパンの村上氏は、同社の取り組みについて次のように説明した。

損害保険ジャパン 執行役員CDO DX推進部長の村上明子氏

 まず、2021年4月にDXを推進するための組織として「DX推進部」を新設。「2021年から始まった当社の中期経営計画では、成長戦略を推進するために『マーケティング』と『イノベーション』に重点を置いており、DX推進部はこのうちイノベーションの実現を目的としている」(村上氏)という。

 DX推進部では、「DXによる圧倒的な生産性の実現」「データドリブン施策の全社展開」「デジタルによるビジネス拡大」「DXの風土構築とDX CoE(Center of Excellence)の推進」「顧客や代理店への新たな体験価値の提供」といった5つの戦略を打ち出している。とりわけGoogle Cloudのサービス利用と深く関係している2つ目の戦略について村上氏は、「当社は保険会社なので普段からデータを活用して保険証書を作成しているが、そうしたデータをさらに販売やマーケティングなどにも深く生かせるようなデータドリブン経営を目指している」と力を入れて語った(図2)。

図2 損保ジャパンのDX推進部が掲げる5つの戦略(出典:「Google Cloud Day ’23 Tour Tokyo」基調講演の資料)

 上記の5つの戦略を推進するため、同社では内製化に注力することにした。これまではプロトタイプのプログラムであってもベンダーに作成を依頼することが多かったが、DX推進部内に内製化チームを設置し、システム子会社と連携することでスピーディーなPoC(実証実験)や開発を行える体制を整えたという。

 村上氏はこの点について、「DXには実際に試してみなければ分からないことが多いので、プロジェクトをアジャイルに進めていかなければならない。そのためには、クラウドを活用した内製化が必要だと確信している」との見方を示した(図3)。

図3 損保ジャパンが進める内製化の体制(出典:「Google Cloud Day ’23 Tour Tokyo」基調講演の資料)

 さらに、クラウドサービスとしてGoogle Cloudを採用した理由について、同氏は「高速な自動スケーリング」「OSS(オープンソースソフトウェア)ベースの技術展開」「PaaS(Platform as a Service )の安定した稼働実績」「マネージドサービスの優位性」「公式ドキュメントの充実」「企業文化からの学び」といった点を挙げた。とりわけ、最後の企業文化について「失敗を学びとするGoogleの企業文化を学びたいという思いがあった」と語った。筆者の印象だと、これはGoogle Cloudを選ぶ企業に共通している。

 最後に、損保ジャパンが目指すDXについて、同氏は次のように語った。

 「生産性向上などを目指す業務変革型の『守りのDX』と、デジタルによるビジネス拡大を目指す事業創造型の『攻めのDX』による“両利きのDX”を展開したい。そのためには、社内外の多種多様なデータの活用が不可欠であり、それを実行するクラウドサービスの重要性はますます高まってくる。両利きのDXによって、お客さまや代理店に向けた保険の新たな価値を生み出していきたい」(図4)

図4 損保ジャパンが進める「両利きのDX」(出典:「Google Cloud Day ’23 Tour Tokyo」基調講演の資料)

 「攻めと守り」については「IT」でもよく使われてきた表現だが、「DX」は顧客接点をはじめとした業務現場の変革およびイノベーション創出に比重がかかった取り組みといえよう。

 筆者はこれまでの取材の中で、「損保会社は人間社会を映すデータの宝庫」と聞いたことがある。損保会社にはリスクに関するさまざまな事象のデータが集まるからだ。同社は今後、データそのものを生かしたビジネスにも乗り出す可能性がありそうだ。注目していきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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