「重たい」を払拭する組織改革とモダナイズの提案を推進――NEC 金融ソリューション事業部門長 岩井孝夫氏(1/2 ページ)

FinTech企業の登場や顧客体験のニーズの変化を前に、金融機関のIT施策にも変化が見られる。この春、NECの金融ソリューション事業部門のリーダーに就任した岩井氏はこの状況をどう見ているのだろうか。

» 2023年06月30日 08時00分 公開

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 FinTechの隆盛、既存金融機関におけるCX改革や他事業者と連携したサービス開発、地域連携などを背景に、従来はレガシーで動きが遅いとされてきた日本の金融業界でもDX推進に向けたIT投資が進む。古くから日本の金融機関を支えてきたITベンダーはこの動向をどう見ているのだろうか。今春NECのCorporate SVP 金融ソリューション事業部門長に就任した岩井孝夫氏を取材した。

NEC Corporate SVP 金融ソリューション事業部門長 岩井孝夫氏

実行力が成果に、今後は新技術のキャッチアップにも注力

──業績が好調です。ご担当されている金融事業を中心に好調の要因をお聞かせください

 直近決算は全セグメントが増収となりました。マーケットが好調なこともありますが、それを追い風に状況をキャッチアップできる「実行力」をわれわれが示せた証だと捉えています。

 近年はITが経営に及ぼす影響が大きくなっています。金融はもともとITを活用した「装置産業」の側面があり、根本の仕組みが急に大きく変わることはありませんが、その中でも古いITを刷新していきたいというニーズは強く、それらの要望に応えられたと考えます。

 特にこの数年はコロナ禍や働き方改革の推進をきっかけに、従来対面での取引が多かった金融機関においても業務のオンライン化が進んでいます。従業員の方々の働き方においてもテレワークがかなり普及しました。金融機関では厳しいセキュリティ基準が求められますから、ITソリューションで課題を解決するには実効性のある施策とそれを実装する力が必要です。こうした中で新しい働き方を推進していこうとするお客さまのニーズにも応えきれた結果だと自負しています。

 セキュリティに関してはグループ内のセキュリティ専門組織とも連携する体制が整いつつあります。

 最近では、Web3や生成AIへの関心も高まっているようです。これらの新しい技術は、まだビジネスに対するインパクトは大きくはありませんが、今後は新しい技術トレンドを含めてキャッチアップできていないと持続可能な事業展開は難しくなるでしょう。既存のビジネスを大事にしながら、新しいチャレンジも進めていく考えです。

──コロナ禍でリモート対応に課題を抱えられた金融機関も多いようです

 モバイルバンキングへのシフトやお客さまのオンライン対応など、メガバンクから地銀、信金各社が共通の課題として取り組みを進めておられました。加えて、従前よりもサイバーセキュリティへの対応が強く求められるようになったことも大きな変化でした。セキュリティ脅威への対策はリモートでの業務遂行と相反する側面もあります。この数年は、それらの両方を同時に進めていく難しさがあったと感じています。

 セキュリティに関しては、インターネットと内部ネットワークの境界があいまいになり、階層型の境界防御が通用しなくなりました。そこで境界を設けずに中と外で同じように取り扱うゼロトラストアプローチが注目されていますね。まだ大手行が中心ですが、今後は地銀や信金を含め、ゼロトラストに取り組む金融機関はさらに増えるとみています。NECでは社内のDXを進めるに当たってゼロトラストに向けたツールやソリューションの導入を進めており、社内で培った知見を顧客企業の皆さまに提供していく考えです。

──金融業界の顧客の意識に変化は

 私自身は長く金融業界のお客さまとご一緒していますが、この10年ほどはお客さまの中のIT部門の方々の意識が大きく変わっている印象です。基幹システムを見ておられるIT部門の方々はプロフェッショナルとしてのマインドがますます高くなっていますし、新しい技術の取り込みにも積極的な方々が多いと感じています。

 非IT部門の方々のITリテラシーが高くなっていることも最近の傾向でしょう。内製化やローコード/ノーコード開発に積極的に取り組んでおられる企業が多く、各社とも全社的なIT活用を積極的に推進しておられます。それに連動した問い合わせ内容も高度になっていますから、ベンダー側のわれわれとしてはご要望に対応できる情報収集力と技術力が今後ますます重要になるとみています。

「重たい」イメージを払しょくし、ファーストチョイスで名前が挙がるポジションを目指す

──中期計画では「国内企業のトランスフォーメーションを加速させる」とうたっています。金融ビジネスにおけるビジョンや戦略を教えてください

 私たちはミッションクリティカルシステムに強みを持っていますが、この強みをブラッシュアップさせAIなどの新しい領域への取り組みも支援していきます。金融事業では、既存IT資産が多く、それらをいきなり全てクラウド化するというのは経済合理性も含めて現実解にはなり得ないと考えています。既存IT資産の良さをしっかり生かしながら、次のステップに歩んでいくことが大事です。それがわれわれが考えるモダナイゼーションのあるべき姿です。新しい環境の構築、既存IT資産の作り替え、周辺システムとのつなぎこみなど、お客さまの実態に合わせたサービスを提供していきます。今まで「重たいベンダー」「レガシーなベンダー」というイメージを持たれがちでしたが、一緒に新しいことにチャレンジできるベンダー、ファーストチョイスとしていただけるベンダーを目指していく考えです。

 ITサービスの基本は、信頼性と安定性が第一。システムのレジリエンシーを求めながらお客さまにサービスとして提供することが価値につながっていました。

 ただし、これからは既存IT資産をそのまま維持すれば良いのではなく、社会の変化、技術の変化が早まる中でも堅ろう性や安定性を維持しながら変化に柔軟に対応することも重要になっています。例えばわれわれがご支援した三井住友フィナンシャルグループさまでは、勘定系システムの刷新に当たりメインフレームの更改だけでなく、その周辺領域においてより柔軟性を持たせるためにオープンシステムも採用したハイブリッド構成を実現しておられます。

 私たちは、いまお客さまがご利用になっているメインフレームシステムについて、2030年以降も開発を継続することをお約束しています。これは、古いシステムを守るというだけではなく、開発を継続することで信頼性と安定性を維持しながら新しい技術トレンドに対応するための取り組みです。この部分にコストを惜しむことはありません。新しい取り組みを安心して進めるには安定性へのニーズはますます高まると考えています。

──どのように提案されるのですか

 「塩梅(あんばい)」というコトバがありますが、IT施策の提案はこの塩梅をうまく整える力が重要です。ゼロかイチかで考えて「一元管理をするのか」「分散管理するのか」といった2択でのアプローチではなく、お客さまの環境に応じて適正な水準があります。それを見極めるためには業務理解と技術理解の両方のスキルが必要です。

 料理人がお客さまに料理を提供するときに、全て塩辛くするわけでもないし、全て薄味にするわけでもありません。全てをクラウドでマイクロサービス化したり、ブロックチェーンで台帳を管理したりすればいいというわけではありませんし、同じように全てを従来と同じシステムにしておけばいいというわけでもありません。お客さまのビジネスの目指す形やシステムが置かれた状況を見て、それぞれの技術特性を見極めた上で最適な方法を探ることがベストです。「よい塩梅」を実現するには、業務理解と技術の両方に精通した人材がいることが絶対条件になるでしょう。SEや営業がワンチームとなってお客さまに最適なシステムを提案できるような体制が望ましいと感じています。

──金融部門でのご経験が長いとのことですが、現場を見てこられたことはこれらの方針に影響していますか。

 堅実な事業だけでいいのか、事業が固定化していないのか、そこをどう変えられるのかという思いは以前からありました。事業の固定化からの変革は自分のテーマとして取り組んでいくつもりです。

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