「社内の“隠れIT人材”を探せ」 大量解雇でIT部門が回らない企業の起死回生策とはCIO Dive

「レイオフの嵐」が吹き荒れた米国企業ではIT部門のメンバーも削減された。新規採用ができない場面で、セキュリティ対策や顧客サービスの満足度を下げないために企業が採る選択肢の中には、「社内で埋もれているIT人材の発掘」もあるという。大量解雇後で不安に見舞われる従業員が増える中でうまくいくだろうか。

» 2023年07月13日 12時00分 公開
[Jen A. MillerCIO Dive]

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CIO Dive

 景気後退への懸念やFRB(米連邦準備制度理事会)による急速な利上げなどを受けて、米国の多くの企業が2022年からレイオフ(一時解雇)に踏み切っている。最近では技術者のレイオフは減少したが、ゼロになったわけではない。従業員は減っても重要業務は確実に遂行しなければならない中、企業が選ぶ起死回生策とその懸念点とは。

人員削減による「機能低下」を防げるか?

 Meta(旧Facebook)は2023年5月第4週、新たなコスト削減策として6000人規模の人員削減計画を開始した(注1)。IT企業のレイオフ情報をまとめるWebサイト「Layoffs.fyi」によれば(注2)、2023年に入ってから700社以上の企業が20万人近い技術系従業員を解雇した。

 人員削減はIT企業に限ったことではない。生活用品チェーンのWhole Foods Market(注3)や金融サービスを提供するCapital One Financial Corporation(注4)、世界最大の会計事務所Deloitte Touche Tohmatsuなどの企業も(注5)、最近、従業員数削減の動きを見せている。

 人員が削減される中でも業務は遂行しなければならない。企業の重要機能を担うIT部門も例外ではない。人材ソリューション会社Lee Hecht Harrisonのジョン・モーガン社長は「あまりに多くの人員削減を行うと、顧客に提供するサービスの品質が落ちてしまう。IT部門に影響を与えるレイオフは、セキュリティハッキングから顧客サービスの満足度低下まで、企業にあらゆるリスクをもたらす」と指摘する。

 システムが稼働し続けるために、CIO(最高情報責任者)にはいくつかの選択肢がある。従業員の再教育や派遣スタッフの追加、IT部門以外の部署に隠れているIT人材の発掘、人員削減の中で残った従業員の仕事へのモチベーションを保ちながら定着させるための対策の実施などだ。

「隠れIT人材」発掘で“穴”は埋まるか

 Gartnerのホセ・ラミレス氏(シニアプリンシパルアナリスト)は、「人材不足を補うには、あまり目立たないところにいる社内の人材を探すことが必要かもしれない」と述べる。2023年に実施された同社の調査「Resilient Workforce Model of the Future Survey」によると、CIOとITリーダーの5人中4人以上が、デジタル戦略を遂行するために従業員を再教育しているという。

 Gartnerが「ビジネステクノロジスト」と呼ぶ財務担当のデータサイエンティストのようなIT関連スキルを持つ非IT部門の従業員や、IT関連スキルを持ちながら仕事で使っていない「アンタップテクノロジスト」を見つけるために、経営幹部は社内に目を向けている。

 Gartnerによると、CIOの5人中3人近くがこうした熟練労働者をITプロジェクトでも活用していることが明らかになった。

 ラミレス氏は、「今こそCIOは職務経歴にとらわれず、IT部門以外の人材に注目し、スキルベースの人材確保に注力する必要がある」と述べる。経営幹部は、完成させる必要のある仕事を分解し、その重要なニーズを満たすことができる雇用モデルを採用しなければならない。

 この戦略は、社内にオポチュニティマーケットプレイスを開設し、従業員が自分の持っているスキルと「社内パートタイム」として短期間の労働機会をマッチングさせることで実現する。

 Gartnerの調査によると、金融サービス会社Sun Life Financialが2020年にこのアプローチを採用したのはレイオフのためではなく、競争の激しい人材市場が原因だった。最初のテストでは、従業員250人に対して32の募集枠が2週間で埋まった。その後の2021年には、募集枠の90%を埋まったという。

 モーガン氏は「レイオフ後に意図せず生じた人材不足は、フレキシブルワーカーや契約社員で埋められる。派遣社員を投入すれば、フルタイムで働く従業員の不安定な仕事量の負担も軽減できる」と話す。

残った従業員を定着させるためにできること

 レイオフ後、残された従業員は会社の健全性に対する危惧や、「次は自分かもしれない」という不安から、生産性が低下したり退職したりすることが珍しくない。

 BizReportが2022年に実施した「レイオフ余波調査」(2022 Layoff Aftermath Survey)によると(注6)、レイオフ経験者の71%が「レイオフ後にモチベーションが低下した」と回答した。また、レイオフ経験者の65%が「人員削減後に過労になった」と答え、61%が「自分の会社を働きやすい会社として推薦する可能性が低くなっている」ことも判明している。

 人事会社Visierによると(注7)、従業員が解雇された後、残されたチームメンバーの退職の可能性は約8%上昇する。

 モーガン氏は、「ITリーダーは人事部門と綿密に連携し、燃え尽き症候群やストレス、不安などに関する従業員のフィードバックに目を光らせるべきだ」と指摘する。それらの値の急増は、残っている従業員が不満を持ち、より良い職場を探す危険性があることのサインだ。

 「このような感情や損失に対処するためには、残された従業員に対し、解雇が何を意味するのか、つまり長期的または短期的に仕事がどう変わるか、再教育やトレーニングを受けることになるのかを雇用主が伝えることが重要だ」とモーガン氏は話す。

 また、重要な人材には定着を促すボーナスを支給したり、レイオフ後に残った従業員が自分の気持ちを整理するためのウェルネスコーチングを実施したりすることも検討すべきだ。

 「多くの同僚が会社を去るのを見るのはつらいものだ。多くの場合、罪悪感が伴う」(モーガン氏)

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