NEC、パナソニックコネクトの新ソリューションから探る「防災DX」の現在地 最も難しい「初動」に対応できる?Weekly Memo(1/2 ページ)

防災月間の9月を迎え、NECやパナソニックコネクトが新たな防災DXソリューションを打ち出した。果たして、それらは防災で最も難しい「初動」にどこまで対応できるのか。

» 2023年09月04日 12時30分 公開
[松岡功ITmedia]

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 9月は防災月間だ。特に2023年9月1日は、日本の防災意識の大きな転換点になった関東大震災から100周年の節目だったこともあり、防災・減災に関する多くの催しが行われた。ITベンダーが「防災DX(デジタルトランスフォーメーション)」を掲げてさまざまなソリューションをアピールする動きも目立った。

 今回は、特に災害発生時の「初動」においてデジタル技術がどこまで対応できるようになってきたかという視点で、筆者が注目したソリューションを紹介し、考察したい。

NECがAIと画像分析による被害状況を把握する技術を開発

 本題に入る前に、筆者が初動の対応にこだわる理由を述べておきたい。2011年3月11日に起きた東日本大震災後、防災・減災にITがどれくらい役に立ったか、今後どうすればもっと役に立つのかについて、自治体や企業を取材して回った際に、初動対応の難しさと重要性を痛感したからだ。初動対応が遅ければ、救える命も救えなくなってしまう。その後、「DX」と呼ばれる活動がクローズアップされるようになって、ITは防災・減災においてどのように役立っているのか。以下、それぞれに防災DXをテーマに記者説明会を開いたNECとパナソニックコネクトの初動対応の新ソリューションを見ていこう。

 NECは2023年8月25日、研究開発部門のビジュアルインテリジェンス研究所が開発した4つの防災・減災DXソリューションについて、同社の玉川事業所(神奈川県川崎市中原区)で記者説明会とデモ実演を行った。その中で、筆者は「LLM(大規模言語モデル)と画像分析によって被災状況を把握する技術」に注目した。

NECの宮野博義氏(ビジュアルインテリジェンス研究所長)

 同研究所の宮野博義氏(研究所長)によると、NECは「生活に不可欠な都市インフラを平常時から安定的に支え続け、災害時の被害抑制や住民の逃げ遅れゼロを目指す」ことを掲げて、防災DXに取り組んでいる(図1)。

図1 NECの防災DXの考え方(出典:NECの会見資料)

 LLMを活用した新技術は、災害発生時の迅速な対処に向けたものだ。その内容を説明した同研究所の谷 真宏氏(ディレクター)は、災害時における迅速な初動の重要性について、「災害時の被害を最小化するには、避難誘導や救出誘導や救出活動などの初動の迅速化が極めて重要だ。早く救出するほど生存率は高くなる。迅速かつ適切な初動が早期復旧・復興につながる」と述べた(図2)。

図2 災害時における迅速な初動の重要性(出典:NECの会見資料)

 その上で谷氏は、「初動を迅速化するためには、被災状況や場所を詳細に把握することが重要だ。しかし、これまでは震度分布や降水量分布、テキスト情報などから、被災状況や場所を大まかに把握しており、限定的な初動支援にとどまっていた。災害発生時に集まる現場画像から被災状況や場所を詳細に把握することによる速やかな初動支援に期待が高まっている」と説明した(図3)。

図3 初動迅速化に向けた現場画像活用への期待(出典:NECの会見資料)

 ただし、同氏は「現場画像を活用する上で大きな課題が2つある」とも言う。一つが、必要な現場画像を絞り込めないために、被災状況が分からないことだ。もう一つが、被災場所を番地レベルで特定できないため、「行くべき場所」が分からないことだ。こうした課題に対応するためには、膨大な現場画像から利用者の意図に応じて必要な情報を抽出することが求められる。そこで、現場画像から被災状況を把握する技術を開発したという。

 具体的には、災害発生時の現場画像を利用者の意図に応じて絞り込み、地図上に被災状況を整理して表示できるようにした。これにより、被災状況が分かるとともに「行くべき場所」が分かるわけだ。この新技術では、LLMと画像分析を活用することで、利用者の意図に合う画像を絞り込めるため、さまざまに変化する被災状況に素早く対応できるとしている(図4)。

図4 現場画像から被災状況を把握する今回発表の新技術の概要(出典:NECの会見資料)

 谷氏によると、「この新技術は2025年度中の実用化を目指し、災害発生時の救助活動や避難誘導をはじめとする初動の迅速化に貢献したい」とのことだ。

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