NEC、パナソニックコネクトの新ソリューションから探る「防災DX」の現在地 最も難しい「初動」に対応できる?Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年09月04日 12時30分 公開
[松岡功ITmedia]
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パナソニックコネクトは顔認証による避難所運営ソリューション

 一方、パナソニックコネクトは2023年8月24日、最新の防災DXソリューションについてオンラインで記者説明会を開いた。同社の沼 隆久氏(現場カンパニー パブリックサービス本部 業界ソリューション統括部 自治体ソリューション部 シニアマネージャー)によると、「パナソニックは約70年にわたって約600の自治体へ防災行政無線を納入し運用してきた。それを基に現在も防災に関する知見を生かしたソリューションで自治体の安心・安全に貢献している」とのことだ。

左からパナソニックコネクトの大島光博氏(現場カンパニー パブリックサービス本部 業界ソリューション統括部 自治体ソリューション部 アシスタントマネージャー)、沼 隆久氏( 同シニアマネージャー)

 同社の防災DXソリューションの全体像によると(図5)、発生の切迫時と応急対応を中心に、平時と復旧・復興時にそれぞれソリューションを用意している。災害発生時には「防災情報システム」「発令判断クラウド」「避難所運営ソリューション」の3つが利用できる。

図5 防災DXソリューションの全体像(出典:パナソニックコネクトの会見資料)

 筆者が注目したのは、避難所運営ソリューションだ。内容は図6に示すように、顔認証付きカードリーダーを受付端末としてマイナンバーカードや免許証から氏名や住所情報などを取得し、避難者リストを自動で作成する。その避難者情報を災害対策本部に送ってリアルタイムに状況を把握できるようにする仕組みだ。

図6 避難所運営ソリューションの内容(出典:パナソニックコネクトの会見資料)

 「これまでは避難所に入る際、職員が避難者を受け付けて紙に書いた情報を『Microsoft Excel』でまとめて本部へ報告するといった手順を踏んでいた。避難者1人当たり数分かかり、夜間に雨が降る中で長い待ち行列ができてしまうといった運営課題があった。受付処理を数十秒で実施して職員の負担を軽減し、本部への報告もリアルタイムで上げることで、本部からの的確な指揮判断や素早い情報発信も支援できる」(沼氏)(図7)

図7 避難所運営ソリューションのメリット(出典:パナソニックコネクトの会見資料)

 同社はこの避難所運営ソリューションについて、Webサイトで兵庫県南あわじ市の適用事例を紹介している。

 以上、NECの被害状況を素早く的確に把握する技術、パナソニックコネクトの避難所運営ソリューションを紹介してきた。災害発生時の初動対応でデジタル技術をもっと活用できないかとNECの宮野氏、パナソニックコネクトの沼氏に、質疑応答でそれぞれ聞いてみたところ、両氏は次のように答えた。

 「初動対応で最も大事なのは、正確な情報を素早く集められるようにすることだ。また、初動対応では定石通りのプロセスもあるが、実際にはそれぞれの地域で素早く対処すべきことも変わってくるので、情報入手の手段もあらかじめ整備しておく必要がある。こうしたフレキシブルな対応にLLMなどのAIが大いに貢献するようになるだろう」(宮野氏)

 「初動対応では、正確な情報を素早く集められるようにすることが最も重要なポイントだ。また、集めた情報からAIなどを活用して被害状況を迅速に把握し、職員のナレッジに依存することなく、的確な対策を素早く講じることができるようにする。さらに、自治体によって地域特性があるので、それも平時から自治体と共に初動対応に生かせるようにしておく必要がある」(沼氏)

 両氏のコメントは表現こそ違うものの、内容はほぼ同じだ。これには筆者も驚いたが、やはり、この分野を追求しているエキスパートの問題意識は同じなのだろう。

 最後に筆者も一言述べておきたい。災害発生時の初動対応では、上記の両社のソリューションに見られるように、デジタル技術は大きな役割を果たすことが期待できる。しかし、例えば、自治体の庁舎が使えなくなった場合、デジタルを動かす環境をどこでどのように確保するのか。どんな状況でもデジタルをスムーズに使いこなせる人材がどれくらいいるのか――。そうしたデジタルを使う「前段階」について平常時からきめ細かくシミュレーションし、実際の動きと同様のトレーニングを定期的に反復する必要がある。これは、BCP(事業継続計画)およびBCM(事業継続管理)の取り組みでもある。

 BCPおよびBCMについては、本連載でも東日本大震災の1カ月後の2011年4月11日掲載記事「震災から学ぶ事業継続の勘所」で解説して以来、折りに触れて取り上げてきた。BCPもさることながら、大事なのはBCM。とりわけ、平常時に行う「訓練」だと強調しておきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身

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