マルチクラウドによる基幹システム開発は可能か? 金融機関の挑戦に見るWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年11月20日 15時50分 公開
[松岡 功ITmedia]
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内製化で自らの経営戦略をシステムに反映

 以上が、北國銀行における勘定系システムのマルチクラウド化について杖村氏が明らかにした内容だが、実はもう一つ重要なポイントがある。それは、勘定系のアプリケーションについてだ。上記では、「マルチクラウド環境で新たに構築するシステムを稼働させる」、あるいは「コンテナ化とJava化によるアプリケーション構造の見直しを図る」との表現があるが、具体的にどうするのか。

 少しさかのぼって、北國銀行は2021年5月、それまで使い続けてきたBIPROGY(旧・日本ユニシス)の勘定系パッケージシステム「BankVision」をMicrosoft Azureで利用できるようにした「BankVision on Azure」を稼働開始した。同行は、銀行の勘定系システムをパブリッククラウド環境で稼働させたのは、これが国内で初めてのこととしている。BankVision on Azureについては、2018年3月26日掲載の本連載記事「昔ながらの巨大プロジェクトを尻目に、銀行の『勘定系クラウド』が動き出す」で解説しているので参照いただきたい。

 稼働開始から2年半がたち、勘定系アプリケーションとしてBankVisionから新しいシステムへ移行することにしたのか。その新しいシステムは内製化するのか。基調講演を終えた杖村氏がグーグル・クラウド・ジャパン日本代表の平手智行氏と共に記者会見を行ったので、その質疑応答でそうした疑問をぶつけてみた。すると、杖村氏は次のように答えた。

記者会見に臨む杖村氏(左)と平手氏

 「BankVisionから新しいシステムを内製化して移行することにした。内製化とは、全て自ら開発するのではなく、さまざまなパートナー企業に手伝ってもらいながら、自らがしっかりとオーナーシップをとって開発を進めるという意味だ。また、内製化するのは、自らの経営戦略をシステムに反映させたいからだ。パッケージシステムではその点で限界がある。2026年度までに、マルチクラウドによる新たな勘定系システムを実現する計画だ」

 杖村氏の話を聞いていて、BankVision on Azureを使わなくなるならば、当面はマルチクラウドでも近い将来Google Cloudに乗り換えるつもりなのではないかと感じたので、続けて質問してみた。すると、同氏から次のような答えが返ってきた。

 「それはない。マルチクラウドだとシングルクラウドに比べて利用料金が倍増するのではないかとよく聞かれるが、実際にはシングルクラウドとそんなに差がないと認識している。マルチクラウドのメリットをどんどん生かしていくつもりだ」

 勘定系システムは、銀行にとってまさしく基幹システムだ。すなわち、今回のケースはマルチクラウドによる基幹システムの開発というチャレンジである。先進事例として大いに注目されそうだ。

 そこで、筆者から最後に一言。今回のケースに限らず、先進事例は成功のめどが立った段階で、費用を明示してもらえると、他のユーザー企業にとって一層参考になるのではないか。「新しい仕組みによってどのような効果が出たか」は格好のPRになるので、どんな事例でも見受けられるが、その新たな仕組みを実現するためにどれだけ費用がかかったのかについては、どこも公開しようとしない。これまでの買い切りではそれも難しかったかもしれないが、クラウド利用が広がってサブスクリプションが主流になれば、費用も明示しやすくなるのではないか。

 費用の明示はクラウドのさらなる普及にも大きなインパクトを与えるはずだ。それを聞き出すのが、われわれ記者のこれからの仕事でもあるだろう。費用も分かる事例の紹介を増やしたいものである。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身

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