日本企業のDXは本当に進んでいるのか。ITRによる最新の調査結果では「停滞の動き」も見られる。同調査結果から日本企業のDXの現在地を探る。
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今や多くの企業が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)。だが、その中身は本当に進展しているのか。アイ・ティ・アール(以下、ITR)が2023年11月20日に発表した「国内IT投資動向調査報告書2024」(注1)では、DXの進ちょくに「停滞の動き」も見られる。同報告書から筆者が興味深く感じた調査結果を取り上げながら、日本企業のDXの現在地について考察したい。
同調査は、国内企業のIT投資の意思決定に関わる役職者に対して、2023年8月19日〜9月1日にWeb経由で実施し、2259人から回答を得たものだ。本稿ではその中からDX関連の調査結果に着目し、発表日に行われた記者説明会におけるITRの三浦竜樹氏(プリンシパル・アナリスト)、水野慎也氏(シニア・アナリスト)、入谷光浩氏(シニア・アナリスト)による解説を踏まえながら話を進める。
企業のDXにはどんな課題があり、その中から今後どのような優先順位で取り組みがなされようとしているのか(図1)。
20項目から構成される棒グラフは、ITRが調査を基に主要なIT動向の重要度を指数で表したものだ。20項目のIT動向の多くがDXの課題でもある。赤い折れ線グラフが2023年度の実施率、すなわち現在実施している割合だ。青い折れ線グラフは今後(2024年度以降)の実施率予想を示している。
図1でまず目を引く項目は、重要度指数も現在および今後の実施率もトップを占める「全社的なデジタルビジネス戦略の遂行」だ。DXは全社的な取り組みだという意識が高まってきたように見える一方、現在の実施率(36%)からするとまだ3分の2の企業で全社的な取り組みになっていないとも読み取れる。「多くの企業はまだDXを全社的な取り組みにするのに苦労している」というのが筆者の印象だ。
また、この図には記されていないが、ITRによると、2〜3年後に実施したい項目として最も割合が高かったのは「デジタル技術を活用した新たな収益源の創出」、つまり収益を生み出すビジネスの創出だ。この思いはどの企業も同じだろう。
図2は、6項目からなるDXに向けた体制・プロセスの整備状況において、これまでの5年間の変化を示したグラフである。
図2でまず注目されるのは、最初の「経営戦略の中で、デジタル戦略のビジョンや方針が位置付けられている」との項目について、この3年間30〜31%にとどまっていることだ。この項目はまさしくDXの“肝”となる内容であることから、ITRは「DXに向けた体制の整備が停滞していると見て取れる」との認識を示した。
さらに、2項目以下でも2022〜2023年にかけてはほぼ同等か減少を示しており、全体としてもDXに対する停滞感が漂っているようだ。
図3は、「DX推進で最も重要な役割を担うべき組織」について聞いた結果のグラフである。
IT部門が35%、経営企画部門が25%、DX専任部門が23%、業務部門が10%という結果になっている。これはDX専任部門がない企業の場合、IT部門や経営企画部門、業務部門がDX推進を担っていると捉えられる。
企業にとってDXを推進する上で非常に重要な取り組みとなるこの点について、筆者からこれまでの取材を基に一言申し上げると、どの形態がよいかは企業によって異なる。大事なのは全社を巻き込む推進力だが、最も牽引役となるべきなのはCDO(最高デジタル責任者)でもCIO(最高情報責任者)でもなく、CEO(最高経営責任者)だ。執行役はCDOやCIOが担えばいいが、DXという経営改革に向けて腹をくくるのはCEOの役目である。
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