「半導体不足」の悪夢、再び? 中国のレアメタル規制に日米韓が対抗策Supply Chain Dive

レアメタルの埋蔵量で圧倒的に優位に立つ中国が2023年8月から実施しているレアメタル輸出規制。日本と米国、韓国はこの危機を乗り越えるべく、“同盟”関係の構築に動いている。半導体などの原料であるレアメタルの入手困難という危機を回避できるだろうか。

» 2023年11月28日 07時00分 公開
[Kate MagillSupply Chain Dive]

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 半導体やLEDなどの原料となる希少金属(レアメタル)の埋蔵量は世界で遍在している。ガリウムとゲルマニウムの生産量で世界一のシェアを誇る中国が2023年8月から輸出規制を実施したことで、サプライチェーンの逼迫(ひっぱく)が懸念されている。

中国に対抗するための日米韓「警戒システム」

 ジョー・バイデン米大統領は2023年8月、大統領別荘のキャンプデービッドに日本と韓国の首脳を招いた。3カ国の首脳は協力と技術革新のさらなる促進のために一堂に会した。

 バイデン大統領と日本の岸田文雄首相、韓国の尹錫烈(ユン・ソクヨル)大統領はサプライチェーンと製造において、重要な鉱物と各国のEV(電気自動車)やバッテリーの開発を支える資源の必要性に焦点を当てている。

 首脳らは、主要な生産および物流ネットワークで起こり得る障害に関する情報を交換するため、「サプライチェーン早期警戒システム」のパイロットプログラムを立ち上げることに合意した(注1)。

 ホワイトハウス(米連邦政府)は広島サミット(2023年5月開催)のリリースの中で、「米日韓3か国の首脳によって、レアメタルや充電式バッテリーなど優先すべき製品や資源を特定し、サプライチェーンの混乱に関する情報を迅速に共有する仕組みを構築する」と述べた。

 コンサルティング会社のAlbright Stonebridge Groupのタミ・オーバービー氏(東アジア太平洋実務担当シニアアドバイザー)は「ホワイトハウスはこのプログラムの詳細を明らかにしていないが、おそらくデータや情報、資源を3カ国間で共有する方法に重点を置くだろう」と述べた。

 バイデン政権はまだ同プログラムの開始時期を発表していないが、オーバービー氏はこのシステムに関する議論は進行中だと指摘する。「知見の共有を進め、技術を移転し、サプライチェーンマネジメントのベストプラクティスを共有する。3カ国間で足並みをそろえるためにできることは何でも実施するつもりだろう」(オーバービー氏)

供給不足の際は「融通」も?

 「レアメタルの採掘と加工において日中韓3カ国は協力できる」とオーバービー氏は言う。レアメタルの産出国であり、抽出が難しいレアメタルの加工技術を持つ中国の優位性を、3か国が資源と鉱物を共同で利用することで崩せるかもしれない。

 オーバービー氏は「試験的な取り組みとして、まずガリウムとゲルマニウムを対象とした警戒システムを導入することが考えられる」と話す。この2つのレアメタルは、半導体製造や防衛、再生可能エネルギー分野で使用されている。

 米国地質調査所(USGS)によれば、ガリウムは米国には埋蔵されていない。2022年時点でゲルマニウム鉱山があるのはアラスカ州とテネシー州のみだ(注2)(注3)。一方、世界で生産されるガリウムの85%、ゲルマニウムの約60%は中国が占めている(注4)。

 2023年8月1日、中国がガリウムとゲルマニウムの輸出規制を開始したことで、鉱物のサプライチェーン管理における格差はさらに悪化した(注5)。英国の通信社であるReutersによると、輸出規制実施後、中国は2023年8月にガリウムとゲルマニウムを一切輸出しなかった(注6)。その後、一部の中国企業はガリウムとゲルマニウムの輸出許可を得た。

 オーバービー氏はこの状況について、ガリウムとゲルマニウムで警戒システムの試験運用の有効性を検証するために最適な状況だと述べた(注7)。「日米韓3カ国が共同でレアメタルを調達し、各国の備蓄供給状況について情報を交換し、安全なデータ共有プラットフォームを構築できる。全てを開示する必要はないが、3カ国が同盟を結び、何か問題が発生した場合、(安全保障における)相互防衛条約のように同盟国への攻撃は自国への攻撃と見なすことも可能かもしれない。また、ある国が供給不足に見舞われた際、他の二国が協力して備蓄を調整することもできるだろう」(オーバービー氏)

「小さく始め、より多くの国々が参加するようになる」

 米国とアジア地域の相互理解を目的としてデイヴィッド・ロックフェラーによって設立された非営利団体Asia Societyのシェイ・ウェブスター氏(アジア経済担当ディレクター)は、「警戒システムの成功は関係国間の相互信頼が前提になる」と話す。警戒システムには政府関係者だけでなく、関連分野の民間企業も参加する共同フォーラムなどのプラットフォームが必要だという。

 「この試験的な構想は日米韓の間で始まったが、成功すればより多くの国々が参加する可能性がある。既にある程度の信頼を得ている国から小さく始め、より強固なものにしていく」(ウェブスター氏)

 オーバービー氏は、特にレアメタルの採掘が本格化する中で、同盟国とともに警戒システムを構築することは、米国がアジア太平洋地域でレアメタルを巡る協力関係を築くのに役立つと付け加えた。「中国の台頭に対処するためには、志を同じくする国々、つまり価値観を共有する国々があった方が良いということを日米韓3か国は認識している。最終的には、誰を信頼するかにかかっているだろう」(オーバービー氏)

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