2024年、生成AIはどう広がり、ビジネスにどう影響をもたらすか――JEITAの調査から探るWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2024年01月09日 16時50分 公開
[松岡功ITmedia]
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生成AIの普及拡大が私たちにもたらすものとは

 生成AIの利用によって変化が期待できる8つの分野に焦点を当てると、2030年までの世界と日本の需要額はどうなるか(図5)。

図5 生成AI市場の利活用分野別の需要額見通し(出典:JEITAの会見資料)

 小島氏は図5について、「生成AIの利用分野は今後一層広がる。特に伸長が著しいのが製造分野だ。年平均50%を超えて成長し、2030年には507億ドルに拡大する見通しだ。製造現場における業務支援や製品開発支援などユースケースは多岐にわたる。他にも金融や公共、通信・放送分野などにおいて作業の効率化や創作活動の拡大などで利用が広がる」と説明した。

 以下、金融、製造、公共の分野を例として挙げておこう。

 金融分野の2030年における世界の需要額は439億ドル(2023年から年平均56.6%増)、日本の需要額は3397億円(同年平均49.2%増)との見通しだ。JEITAは「柔軟な顧客対応や、顧客対応時に発生するデータ作成や記入、顧客対応履歴の内容からの最適化、またバックオフィスでは電子メールや企画書、見積書の自動作成といった、AIが人間をサポートできる範囲がより広がることによる需要拡大が期待される」と見ている。

 製造分野の2030年における世界の需要額は507億ドル(2023年から年平均54.6%増)、日本の需要額は3932億円(同年平均45.1%増)との見通しだ。「設備の仕様書や操作方法、マニュアルの自動生成や開発における図面作成・プログラミングなど活用範囲が拡大する。製造物の3Dデータや図面からリスクのある部位を検知・警告するなど、従来、人間が実施していた業務領域にAIが進展することで需要拡大が期待される」(JEITA)とのことだ。

 公共分野の2030年における世界の需要額は98億ドル(2023年から年平均53.0%増)、日本の需要額は478億円(同年平均44.7%増)との見通しだ。「AIは住民対応における問い合わせ要点を柔軟に理解してQ&Aを作成したり、バックオフィスにおいてデジタル化された各種文書データを効率化したりするなど、フロント業務およびバックオフィス業務の効率化が実現することによる需要拡大が期待される」(JEITA)とのことだ。

 生成AIの影響を受けるハードウェア市場の2030年までの世界と日本の需要額の見通しはどうか(図6)。

図6 生成AIの影響を受けるハードウェアの需要額見通し(出典:JEITAの会見資料)

 小島氏は図6について、「生成AIの発展や利用の広がりにより、ハードウェア市場にも効果が及ぶ。ハードウェア11品目を抽出して需要見通しをまとめた結果、2030年までの年平均成長率は世界で4.7%増、日本で3.7%増となっている。これには生成AIによる押し上げが盛り込まれている。特にインフラについては、世界と日本で3割程度という大きな押し上げ効果が織り込まれている。生成AIの処理と実行には膨大なデータの保管や管理のためにサーバやストレージが必要となる。ここでカギを握るのは高性能な半導体だ」と説明した。

 その上で、同氏は「生成AI市場は大きな成長が期待される一方で、偽情報の拡散や著作権の問題などの課題も顕在化しつつある。調和の取れた社会実装のために環境整備が不可欠であり、国際的な枠組みやルール形成などが必要だ。JEITAは世界各国・地域のデジタル業界団体と引き続き連携して、会員企業とともに各種事業を推進していきたい」との決意を示した。

 利用分野の広がりが、生成AIがいかにキーテクノロジーであるかを物語っている(図5)。ハードウェアへの影響の大きさについても同じことがいえるが(図6)、一方で、そうなると電力をはじめとするエネルギーの問題が今後大きくのしかかってくるだろう。環境保全とバランスをとったレジリエンスをどう実践していくか。生成AIの普及拡大は、私たちにこうした大きな問題を突き付けていることも認識しておきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身

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