ChatGPTで「企業の公式ビジュアル」を作成してみた 試行錯誤を救う“2つの必須スキル”「AIが卵より安くなる時代」に向けて

ChatGPTをはじめとする生成AIを使う業務としては議事録作成や資料の要約、電子メールの下書きなどが代表的ですが、今回は全く別の使い方を紹介します。筆者が経営する企業の「公式ビジュアル」が出来上がるまでの思考錯誤から浮かび上がった、生成AIを使いこなすために欠かせない2つのスキルとは。

» 2024年02月14日 07時00分 公開
[永田豊志ITmedia]

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この連載について

AI(人工知能)を仕事で利用するのが当たり前になりつつあります。高価だったAIがコモディティ化して「卵よりも安く利用できる」近い将来、「副操縦席」に追いやられないために、われわれは何をすべきでしょうか。

AIをビジネスで生かすべく日々実践している永田豊志さんが、ビジネスパーソンの生産性向上に役立つ情報と、そこにとどまらない、将来を見据えた挑戦のためのヒントをお届けします。

※この連載のバックナンバーはこちら

 筆者が経営しているショーケース(注1)では、毎年、フライトプランと呼ばれる年間事業(飛行)計画を作って、その年のスローガンに沿ったビジュアルを作成しています。

 ビジュアルは1年間のプレゼンテーション資料やWeb会議アプリの「Zoom」の背景、IR(Investor Relations)、採用などあらゆるところで使われるキービジュアルとなります。2024年のキービジュアルは、当社の制作担当のAさんがAI(人工知能)を活用してすてきに作ってくれました。

 完成までの試行錯誤には、AIを使いこなす上でとても大事なポイントが含まれているので、読者の皆さんと共有したいと思います。

数十回の試行錯誤を経て完成したキービジュアル

 まず、今回完成したキービジュアルはこちらです。懐かしい「RPG」(Role-Playing Game)の雰囲気があっていい感じだと思っています。

 ここからは、制作を担当したAさんによる解説をお届けしましょう。

利用したツールは? イメージはどう決めた?

 ツールは、2023年10月から「ChatGPT」に統合された「DALL-E 3」を使用しています。DALL-E 3はテキストの依頼文(プロンプト)から画像を出力するAIサービスです。現在は、有償の「ChatGPT Plus」(月額20ドル)によって利用できるGPT-4でDALL-E 3を使うことができます。

 その後、ChatGPTとブレインストーミングをしました。

 今回は、「誠実・挑戦・成長+Experience(経験)」というスローガンに沿って、「経験値をためる」というイメージからRPGをモチーフにしようと決まっていました。そこからChatGPTを使ってブレインストーミングしました。

 まず、ChatGPTに次のような依頼文(プロンプト)を入力します。

 入力したワードから連想する風景を5つ文章にしてください。

 RPG、勇者、経験値、城、自然、空

 すると、ChatGPTから次のような文章が返ってきます。

1.  RPGの壮大な冒険が始まる地点、古代の城の門前に立つ勇者。彼の背後には未知の自然が広がり、その先には挑戦と成長の旅が待っている。空は広く、朝日が城壁に反射して輝いており、新たな1日の始まりを告げている。

2.  勇者が経験値を積み重ねる中、彼を取り巻く自然の風景が変わっていく。豊かな森を抜け、高い山を越え、彼はついに神秘的な湖のほとりにたどり着く。空はクリスタルのように澄み渡り、星の光を映して湖面が輝いている。

(中略)

 これまでは、イメージを広げるために参考資料を探す手間や時間がかかっていました。ChatGPTを使ってテキストを生成することで、ものの数分でビジュアル化するためのイメージが詳細になります。

 このイメージを基に、「自然豊かな環境で、美しい湖の前に立つ勇者が、奥に見える城を目指している」というイラストを作成したいと考えました。

 今回のイラストを作成するためにChatGPTにインプットしたプロンプトは次の通りです。日本語よりも英語のプロンプトの方がアウトプットの精度が高くなるようなので、ChatGPTを使って翻訳した文章を入力しています。

Please create images.

- size:1920px×1080px

- color:Main color=00ccff、008dff Sub color =fff36a、1aedce、e71f37

- style:pixel art、The artwork should emphasize clarity、 simplicity、 and the beauty of minimalism.

-set Seed Value

The style of RPG games.

The hero is wearing a cape and holding a sword.Cape color: e71f37

A large castle is on the left side、 reflecting in the lake. In the distance、 you can see mountains.

The perspective is from behind the hero.

The hero defeats monsters to fill up the experience bar.

 

 もし、上記のプロンプトを使って実際に画像を生成しようという場合は、生成したい画像の条件によって、以下の点を調整する必要があります。

  • size: 作成したい画像のサイズを入力します。上記では1920px×1080pxと入力していますが、DALL-E 3が現時点で生成できる最大サイズは次の通りです

 正方形(Square): 1024x1024ピクセル

 横長(Wide): 1792x1024ピクセル

 縦長(Tall): 1024x1792ピクセル

  • color: 配色の希望がある場合に入力します。今回は「爽やか、若々しさ」を連想させたいといったコンセプトが決まっていたので、メインカラーは水色、サブカラーとしてショーケースのキーカラーである赤を設定しました
  • style: どのようなタッチにしたいかを入力します。今回はレトロゲーム風のビット絵にしたかったので「pixel art」と入力しました。ビジネスシーンで使用することを想定して、あまりポップになりすぎないようにシンプルでミニマルな雰囲気にするという指示も入力しました
  • set(その他の設定): 今回は、Seed値(Seed Value)を取得するように指定しています。Seed値を取得しておけば、次回の生成時にSeed値を入力することで、人物やイメージを固定させつつ新しく出力させることができます
  • 生成したいイメージの詳細: どのようなイラストにしたいのか、人物や風景モチーフを設定します。勇者のマントは赤にしたかったので、「Cape color: e71f37」と入力しています。ただし、必ずマントを赤にしてくれるというわけでなく、約50%の確率で他のカラーになることもありました

 こうして調整したプロンプトによって生成された結果が、次の4つのイメージです。

 全く同じプロンプトを入力しても、毎回、構図やモチーフが少しずつ違うものが生成されます。イメージに合うものが生成されるまで、何度も試します。

 今回は繰り返すこと数十回で、イメージに近いものが生成されました。

 生成された画像にAdobeの「Illustrator」や「Photoshop」を使ってEXPゲージを追加し、文字やロゴを配置して完成したのが冒頭のイラストです。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

生成AIを使いこなすために必要な「2つのスキル」

 以上が、Aさんのチャレンジの全貌です。

 Aさんの試行錯誤を読者の皆さんはどう感じたでしょうか。「細かく指定する必要があって、反復が多くて面倒くさそう」と感じた方もいるかもしれませんね。

 ここに生成AIを活用する上でのポイントがあると筆者は感じています。生成AIを使いこなすためには、「それなりの工夫」や「プロンプトで指定すべき項目に関する最低限の知識」が必須なのです。

 もう少し具体的に言うと、次のようなスキルが求められると思います。

  • ディレクションのスキル: 「プロンプトにどの項目を入れるか」「何を調整項目として指定するか」に関する知識に基づいてプロンプトを作成するスキル
  • フィードバックするスキル: 生成されたものを評価して、イメージにより近づけるためにプロンプトを修正するスキル

 生成AI時代を生き抜くためには、「AIが人間を超えるのか、超えないのか」といった議論ではなく、他のITツールと同様に、どうやったらこのツールをうまく使いこなせるようになるのか。この課題に真剣に取り組む必要があります。

 現在、グラフィックデザインの世界に、Adobeのツールを全く使えないという人はほぼいないのではないでしょうか。しかし、最先端のツールとして「Illustrator」や「Photoshop」が出てきた当時は、新しいやり方やワークフローを積極的に取り入れたい“変革派”と、手描きといった従来のやり方を踏襲したい“否定派”の2つが存在していました。

 この時と同じことが生成AIでも繰り返されるのではないでしょうか。つまり、AIを使わなかった人は数年後にはサバイバルできなくなるのではないかと筆者は考えています。

(注1)ショーケース

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。

企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。

自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。

著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com、https://www.n-tel.co.jp

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