次に、3番目の「『妄想』から『リアリティー』へ」は、これからのAIへの対応を表現したものだ。亦賀氏は「特に生成AIの進化に対して驚きが広がっているが、それを使いこなせる人材や安心して使える環境なども合わせて、これからはAI活用に向けたリアリティーを見据えて対処することが重要だ」と指摘した。
一方で、「妄想の暴走」の例としては、次の5つを挙げた。
その上で、「現在と数年後の動きをきちんと区別すべきだ。現時点における動きの大半は、数年後に向けた準備だ」と指摘した。
最後に、11番目の「AIの進化に備える」では「『人工知能』の進化に対してこれから問われるのは『人間知能』だ。人間は脳を使わないで退化させると、AIに仕事をどんどん奪われることになる」と警鐘を鳴らした。
さらには、「脳を退化させる」との前提がなくとも、「2030年までに、事務的な業務の80%はハイパーオートメーションによって置き換えられる」と予言。「顧客満足度や従業員満足度、売り上げ利益、企業価値に関係のない業務は、AIをはじめとしたテクノロジーによって自動化される。従って、業務中心主義から脱却する必要がある」との見方を示した。「ハイパーオートメーション」とは、AIなどの最新テクノロジーを組み合わせて複雑な業務を自動化するソリューション」を指す(図3)。
では、「人間知能」を生かすためにどうすればよいのか。亦賀氏は「例えばコールセンターなどの顧客接点となるところでは、機械的、事務的な対応ではなく人間ならではのサービスへと転換する」と述べて、「生成AIによって人間力を取り戻し、産業革命を実現する新たなエンジニアリング能力を獲得することがこれから求められる」と話した。
今回の亦賀氏の話を受けて、筆者も一言述べておきたい。
冒頭で、AI活用の推進が企業の全てを作り変えるきっかけになるとの同氏の発言を紹介したが、筆者はこれを受けて、「企業はAIを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)推進で全てを作り変えよ」と言いたい。改めて、図2をご覧いただきたい。これまで企業においてAIを活用したDXは、ビジネスを変革する目的で語られてきた。しかし、それだけでなくカルチャーや仕組み、そしてブランドにも大きく影響するとなると、これはむしろAIを活用したDXによって企業そのものを積極的に作り変える発想を持つべきではないか。
そのカギはどこにあるのか。それこそ、亦賀氏が最後に述べた「生成AIによって人間力を取り戻す」ことがポイントではないか。すなわち、人間はAIとうまくコミュニケーションをとりながら、新しいことをどんどん考えてさまざまなことにチャレンジすればいい。
さて、企業の全てをどう作り変えていくか。それこそが企業それぞれの経営改革だ。経営陣の腕の見せどころである。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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