銀行業界ではレガシーシステムが効率化や顧客サービス向上の妨げとなっている。停止できない銀行のシステムにおいて、どうすれば大きな影響を及ぼすことなくコアシステムのモダナイゼーションを実現できるのか。
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ITコンサルティング会社Endavaが欧米の金融機関のリーダー約500人を対象に実施した調査によると、リテールバンク(編注)は顧客体験の向上させるために、コアシステムのモダナイゼーションに注力しているという(注1)。
(編注)個人や中小企業を対象とした小口金融業務を主要事業とする銀行。
同調査によると、銀行業界にはクラウドが浸透しており、回答者の半数以上は「既にクラウドへの移行を開始している」と答えたという。
調査対象となった銀行の4分の3は、「業界標準の決済をはじめとする顧客サービスを強化するためにはコアシステムをモダナイゼーションし、レガシーシステムを段階的に廃止する必要がある」と考えている。
銀行業界は依然として技術的負債を抱えているが、その一部は解消され、クラウドに移行し始めている。Endavaのスコット・ハーキー氏(金融サービス・決済担当エグゼクティブバイスプレジデント)は「多くの金融機関は異なる製品やサービスのスタックを抱えている。実際、私は20年間銀行業務に携わってきたが、全く同じものが2つあるのを見たことはない」と、「CIO Dive」に語った。
リテールバンクでは、クラウドとオンプレミスのシステム間でワークロードを分割する「ハイブリッドIT」が主流だ。
コアシステムの全面的な置き換えはコストが高く、重要なビジネス機能と銀行サービスに打撃となるような重大な影響を及ぼす可能性がある。多くの銀行にとって、これは現実的な選択肢ではない。
「銀行業務や金融サービスにおいて、顧客に影響を及ぼさないコアシステムを見つけるのは難しいだろう。銀行の最も基本的な構成要素である預金システムや元帳(総勘定元帳)でさえ、顧客体験に大きな影響を与えてしまう」(ハーキー氏)
ほとんどの銀行が混乱を最小限に抑えるために、より広範な変革に向けて時間をかけて小さな機能アップグレードを実施する段階的な移行とモダナイゼーションというアプローチに落ち着いている。
同調査の回答者の半数近くがこうした段階的なアプローチを採っている。その他の40%は、既存システムに外部機能を追加するデジタルラッパーやアプリケーションのコンテナ化、あるいはAPIを使用してコアシステムを更新するといった、より進歩的な戦略を採用している。
どちらのアプローチもレガシーコードが残るため、レガシーコードを扱えるプログラミング人材を調達するIT部門に負担をかける可能性がある。しかし、クラウドの知識が蓄積され、技術を統合しやすくなるにつれて、業界は学習しつつある。
「以前はハイブリッド環境を構築するのは困難だった。しかし、組織が成熟するにつれて、あまり変動がない静的なワークロード用にオンプレミスで専用の物理インフラを維持しながら、クラウドを利用して効率化を図ることにメリットがあると分かってきた」(ハーキー氏)
リテールバンクの現在の優先事項トップ3は「効率化」「デジタルにおける顧客体験の向上」「顧客維持」だ。同調査によると、経営幹部はこれらの目標を達成するためにIT投資を増やそうとしている。
大手金融機関はIT投資への意欲を示している。総合金融サービスを展開するCitigroupは2023年に120億ドルをITに投じたと2024年1月に報告した(注2)。国際的に金融サービスを提供するBank of Americaは2024年、新技術に38億ドルを投じる予定だと、同行のブライアン・モイニハンCEOが2023年10月に述べた(注3)。
Endavaによる調査の回答者の約4分の1が、DX(デジタルトランスフォーメーション)の主な障壁として「コスト」を挙げた。「技術的施策への経営陣のサポートが不足している」と答えたのは、回答者のわずか12%にとどまった。そして、銀行がコアシステムのモダナイゼーションに取り組む際に直面する最大のハードルとして回答が集まったのは、「競合する技術の中で何を優先すべきかを判断すること」だった。
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