NECが2024年7月30日に発表したITサービスにおける2024年度第1四半期の国内受注状況は、全体で前年同期比13%増、変動の大きいNECファシリティーズを除くと同15%増と好調に推移した。
業種別では、パブリックが前年同期比32%増と大幅に伸長し、エンタープライズが同2%増、その他も同6%増と伸びた。エンタープライズの内訳では製造が同13%増、流通・サービスが同10%増と伸長したものの、金融は同7%減にとどまった(表2)。
この受注状況について、同社 取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFOの藤川 修氏は会見で次のように説明した。
「第1四半期は旺盛な需要によって大幅に増加した。業種別では、パブリックが大型案件や自治体標準化案件の獲得により大幅に増加した。大型案件を除いても前年同期比10%強の増加となった。エンタープライズの内訳では、金融向けが同7%減だったが、前年同期に獲得した大型案件を除くと二桁伸長しており、引き続き好調を維持している。製造はDX関連の案件が増え、流通・サービスも大型案件を獲得するなど好調に推移している。その他も子会社のアビームコンサルティングが同19%増で好調を維持している」
今後の需要については、「受注状況は引き続き好調に推移すると見ている。2024年度の業績目標に向けて案件を着実に積み上げているという実感がある」とのこと。そこで富士通の磯部氏への質問と同じく、そうした好調な中で今後の受注にマイナスの影響を与えるリスクをどう見ているかと聞いたところ、藤川氏は次のように答えた。
「率直なところ、大きなリスクがあるとは見ていない。かつては利益率の低い案件への対処がリスクとなっていたが、それも2023年度に利益率の高い案件への受注シフトがだいぶ進んだ。さらに、プロジェクトごとに必要な人材をどう確保するかも懸念事項だったが、適切にマネジネントすることによって、今のところリスクとしては捉えていない」
藤川氏のこの発言は、人材確保に向けた動きをリスクと見る磯部氏と逆の捉え方のようにも受け取れるが、注視しているポイントは同じだといえるだろう。
最後に、デジタル人材の確保について、筆者が取材を通じて「企業としてここに注力すべき」と感じた2点を挙げておきたい。
一つは、外部の優秀なデジタル人材を呼び込むために、自社の魅力を大いにアピールすることだ。上記のように、富士通やNECでさえデジタル人材の確保に注力している中にあって、「これからは業種にかかわらずデジタル企業に変化する必要がある」と言われても、そんなに簡単にデジタル人材は集まらない。社内でのリスキリングによる育成を進めることも大事だが、実践で通用する人材はすぐには育たない。
そこで、激しい争奪戦を覚悟した上で、外部の優秀な人材を呼び込むために、「この会社をデジタルで変えてやろうという人、来たれ」くらいのメッセージを発信すべきだ。ただ、最も大事なのは「この会社が外部の人材にとってどこが魅力的なのか」を明示することだ。そこに確固たる自信を持ってアピールするものがなければ、優秀な人材など来るわけがない。これは、企業におけるこれまでのステータスとは関係ないと筆者は考える。今こそ、企業はそうした自らの存在意義をアピールするメッセージを大いに発信してもらいたい。
もう一つは、全ての分野でAIによる自動化を進めることだ。デジタル人材を確保できないなら、AIにデジタル人材として働いてもらうしかない。分かりやすいのは、生成AIを使って生産性を大幅に向上させることができるソフトウェア開発の仕事だ。生成AIについては、コールセンターをはじめ、さまざまなところでこれまで人がやっていた仕事を代替できることが分かってきた。
AIによる自動化については、富士通やNECなどのITサービス事業者の力を借りてもいいだろう。むしろ、一緒になって新たなデジタル事業を始めるつもりでやるべきだ。AIによる自動化は、うまくやれば人手をかけない「装置ビジネス」に仕立て上げることも可能だろう。そうしたアプローチも自らの魅力にすればいい。
そう考えると、企業の魅力は探すものではなく、創るものかもしれない。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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