続けて、業務アプリケーションベンダー大手3社のコメントを紹介する。
「当社は、エンタープライズAIの未来はエージェント間のシームレスなコラボレーションにあると考えている。だからこそ、A2Aプロジェクトに参加できたことをうれしく思う。重要な基準の設定を支援することでオープンプラットフォームを拡張し、『Agentforce』が分断されたシステムからソリューションをオーケストレーションできるようにし、安全でスケーラブルな相互運用性と、全てのエコシステムで強化されたデジタルワークフォースを確保したい」(Salesforceのゲイリー・ラーホープト《Gary Lerhaupt》氏《製品アーキテクチャ担当》
「当社はA2Aプロジェクトの設立メンバーとして、Google Cloudやその他のエンタープライズリーダーに加わった。このオープンスタンダードは、さまざまなベンダーのAIエージェントが対話し、コンテキストを共有し、協力できるように設計されており、従来の分断されたシステム間でシームレスな自動化を可能にする」(SAPのウォルター・サン《Walter Sun》氏《シニアバイスプレジデント兼AIグローバルヘッド》)
「当社はオープンなクロスプラットフォームコラボレーションを推進しており、共有の原則によって管理され、コミュニティを通じて進化するA2Aプロジェクトの設立メンバーであることを誇りに思う。エンタープライズグレードの AIプラットフォームを推進する当社は、Google Cloudや広範なコミュニティとともにA2Aを実現する独自の立場にある。これは、お客さまだけでなく、エコシステム全体にとっても重要な前進であり、オープンで安全かつスケーラブルなインテリジェントエージェントを実現していきたい」(ServiceNowのジョー・デイビス《Joe Davis》氏《プラットフォームエンジニアリング&AIテクノロジーグループ担当エグゼクティブバイスプレジデント》)
以上が、A2Aプロジェクトの設立メンバー各社のコメントだ。改めて顔ぶれを見ると、企業の業務システムをこれから動かすAIエージェントとそのプラットフォームを提供する主要7社と言っていいだろう。
A2AはGoogle Cloudがもともとオープンプロトコルとして提供したことから、既に100社を超えるIT企業がサポートしている状況だ。今回の新プロジェクトに当たって、この7社が設立メンバーとして名を連ねたところにA2Aに影響を及ぼす大きさの「格付け」を示したとも受け取れそうだ。
とはいえ、上記の各社のコメントからは、微妙なスタンスの違いや悔しさがにじみ出ているところも感じられるのが興味深い。それがまた、市場の活気の原動力になるのだろう。
もう一つ、設立メンバーの顔ぶれで目に止まったのは、Ciscoの存在だ。ハイパースケーラーでも業務アプリケーションベンダーでもない同社が、なぜ名を連ねているのか。上記の同社の担当者のコメントでは、「ベンダーの境界を越えて実際に機能する相互運用性レイヤーを構築する」という言葉が印象に残った。ネットワークソリューションにおいて新境地を開こうとしているのかもしれない。
さらに、Cisco日本法人のシスコシステムズが2025年6月27日に開いた最新ソリューションの記者説明会で、同社の濱田義之氏(社長執行役員)に上記の疑問を投げかけたところ、同氏はA2Aプロジェクトには直接触れず、次のように述べた。
「AI時代に向けてネットワークの重要性が非常に高まっている。それに対してもAIを活用することが求められる。また、当社では今、『AI時代において、組織をつなぎ、保護する』とのミッションを掲げている。保護するとはセキュリティのことだ。AIエージェントの脆弱(ぜいじゃく)性を取り除き、安全に使える汎用性の高いサービスも展開し始めたので、注目していただきたい」(図3)
直接触れなくともA2Aに絡んだ話しぶりに、同氏の意気込みを感じた。
A2Aプロトコルは今回の動きで、AIエージェント連携におけるオープンスタンダードな技術になるのは確実だろう。それを踏まえて、最後にエールを送っておきたいのはSIer(システムインテグレーター)だ。
AIエージェントの連携や活用は、SIerにとっては従来のシステム開発からサービス価値を提供するビジネスモデルに自ら変えるための絶好のチャンスだ。A2Aプロトコルへの対応はもちろん、自らのAI技術力を磨くとともに、A2Aプロジェクト設立メンバー7社のサービスを組み合わせてユーザーに対応するプライムコントラクターの役目をどんどん果たしてもらいたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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