次に安全・安心なAI活用環境について、山田氏は「専門業務へのAI活用は、AIの世代に応じてリスクのレベルが変わる。高いレベルのリスク管理、すなわちAIガバナンスがますます重要になる」として、図5を示した。
同氏によると、AIは、認証技術に代表される「コグニティブAI」、学習した内容から自らの見解を示す「ジェネレーティブAI」、そして今、第三世代として自律的に業務を推進する「エージェンティックAI」の時代を迎えている。
これらをセキュリティリスクの観点から見ると、コグニティブAIは個別の装置に組み込まれることが多いのでリスクは比較的小さい。ジェネレーティブAIになると大規模なデータリソースが必要なことからクラウドを利用するので情報流出のリスクは相応に高まる。それがエージェンティックAIになると、エージェントにさまざまなリソースがつながるようになり、さらにはエージェント自体が乗っ取られると、影響の範囲は非常に大きなものになる可能性がある。
同氏はこうした取り組みを「AIガバナンス」と定義付けている。AIガバナンスについては、AIを運用する際の統制管理だけを指す場合もあるが、同氏が言うようにセキュリティをはじめ、プライバシーやコンプライアンスまでも含めてAIガバナンスとして取り組んでいった方がいいのではないかと筆者も考える。
では、そのAIガバナンスにおいて具体的に何ができるようになるのか。山田氏は「AIガバナンスには、セーフティとセキュリティの両面で包括的な取り組みが求められる」として、図6を示した。
同氏によると、セキュリティは「サイバー攻撃をはじめとした悪い行為からAIを守ること」、セーフティは「悪い行為に対してではなく、ユーザーが意図した通りにAIが動作して人や環境への危害を防ぐこと」との意味だ。それぞれに図6にあるような取り組みが行われることになる。
NECでは安全・安心なAI活用環境を提供するため、早い段階からAIガバナンスに注力している。そのソリューションとして、セーフティ領域では「LLM(大規模言語モデル)の信頼性を向上するハルシネーション(幻覚)対策機能」を提供。セキュリティ領域ではデータセキュリティレベルに応じたLLM環境を柔軟に提供している(図7)。
また、Cisco Systemsとの協業により、AIガバナンスの取り組みをさらに強化する。NECはAIガバナンスの戦略策定から定着化までのコンサルティングメニューを取りそろえ、2025年秋から提供する構えだ(図8)。
山田氏は説明の最後に、先述したBluStellar Scenarioについて、「さらに拡充を図り、安全で安心なAI活用環境でプロセスの変革からビジネスの変革を支援したい」とも述べた(図9)。
なお、BluStellar Scenarioについては、2024年7月29日掲載の本連載記事「NECの戦略から考察 DXを成功に導く『シナリオ作り』の勘所は?」で詳しく解説しているので参照していただきたい。
このBluStellar Scenarioは、NECと同様にDX支援事業を展開している競合他社にとってはコンサルティングに相当する。NECはなぜコンサルティングといわずに「シナリオ」と表現しているのか。今回の会見の質疑応答でそう聞いたところ、山田氏は次のように答えた。
「コンサルティングはお客さまの課題の解決策をゼロから考えるのに対し、シナリオは解決策のパターンをあらかじめ用意しておいて、その中からお客さまに適用できそうなパターンをベースに要望に応えるものだ。その意味では、シナリオは事前に解決策のパターンを用意した形でのコンサルティングともいえる」
同氏は内容の違いについて説明したが、それによってシナリオの方がスピーディーでハイコストパフォーマンスの解決策を得られる可能性が高いというのが、ユーザーメリットなのだろう。
さしずめコンサルティングは「オーダーメイド」、シナリオは「イージーオーダー」といったところか。選ぶのはあくまでもユーザーだ。
ただ、最後に一言述べておくと、ユーザーから見れば、コンサルティングは「受けるもの」、シナリオは「作る(創る)もの」だ。DXはビジネス変革なので取り組む企業が自ら推進すべきだということを本連載でもこれまで幾度も訴求してきたが、それからするとAI活用も自ら取り組む姿勢で臨んでもらいたいものだ。それでこそ、NECのような有力ベンダーとも質の高い「共創」ができるようになるだろう。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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