SAPを悩ます「2027年問題“じゃない”方」の課題とは?CIO Dive

ERP大手のSAPは、SAP ECCのサポート終了に伴う「2027年問題」への対処を進める一方で、長期的な課題への対応を進めている。組織変革も伴うSAPのもう一つの課題とは。

» 2025年09月11日 11時43分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 米国の貿易政策、いわゆる「トランプ関税」の影響はSAPにも及びそうだ。

 2025年6月30日(現地時間、以下同)までの3カ月間を対象とするSAPの2025年第2四半期の決算説明会が同年7月22日に開催された(注1)。そこで同社の経営陣は「当社は米国の貿易政策の変化によって引き起こされる経済的な課題に備えている」と述べた。

SAPが見据える、2027年には解決しなそうな課題

 SAPのクリスチャン・クラインCEOは「当社との契約締結について、顧客は直近数週間で自社の最上位層の承認を突然必要とするようになった。その結果、契約締結までの期間が長期化している。これは通常よりはるかに厳しいコスト管理によるものだ。ただし、これらの案件を失注したわけではない。現在はクロージングまでの計画をこれまで以上に慎重に管理する必要があるというだけだ」と述べる。

 2027年に「SAP ERP Central Component」(SAP ECC)のサポート終了が迫る中で、顧客の慎重な姿勢はSAPにとって課題となる。ただし、SAPは長期的な課題も抱えており、変革に伴う組織再編を進めている。それは何か、具体的に見ていこう。

 ドイツに本社を置くERPベンダーのSAPは、前年同期比で9%増の106億ドル(90億ユーロ)の売上高を記録した。これは主に、SaaSとクラウドERP製品群の売上高がそれぞれ24%、30%と大きく伸びたことが要因だ(注2)。SAPの現在のクラウド残高(クラウド契約に基づき、今後12カ月以内に収益として計上される予定の金額)はわずかに減少し、第1四半期の214億ドル(182億ユーロ)から第2四半期は213億ドル(181億ユーロ)となった。

 SAPは2025年1〜3月、サブスクリプション型のERPソフトウェアサービスと生成AIの導入に関する1年がかりの社内再編を完了させた。しかし、創業から53年の歴史を持つエンタープライズテクノロジーベンダーであるSAPには、短期的な課題と長期的な課題が依然として残っている。

 ERPの移行は多くのリソースを必要とする取り組みであり、大企業の場合は完了までに数カ月から数年かかることもある。オンプレミス型のシステムを手放すことに消極的な顧客に対して、SAPは技術サポートの継続を保証したり、割引クレジットやAI機能の組み込みを提供したりすることで移行を促している。これは従来の「SAP ERP Central Component」(SAP ECC)のソフトウェア製品群に対するメインストリームサポート終了まで残り2年を切っているためだ(注3)。

変革の要はAI導入

 SAPのドミニク・アサム氏(最高財務責任者)によると、21億8100万ドル規模の同社の再編は、1万人の雇用削減を含めて現在継続的な最適化の段階に移行している。アサム氏は「今後数年間の計画策定に向けて準備を開始している」と語り、2025年後半にさらに1〜2%の人員削減の可能性があると示唆した。

 現在進行中のSAPの変革において、AIの導入は要となる。クライン氏によると、同社のAIアシスタント「Joule」は、特定の営業職の生産性を50%向上させ、人事関連の問い合わせに要する時間を20%短縮した。

 「変革のためには、リスキリングやリソースに対する需要が低い分野での人員削減、データおよびビジネスAIのように当社の将来を形成する分野での採用が必要だ。われわれは自社の人員構成を常に見直し、必要とされなくなった職種について明確な対応を取る責任がある」(クライン氏)

 SAP ECCのサポート終了が迫る中、SAPは「SAP S/4HANA」移行を促進するために技術パートナーとの連携を強化している。直近8カ月間でAmazon Web Services(AWS)やMicrosoftとの提携を拡大し(注4)、2025年の初めには、コンサルティング企業であるEY、ITサービス企業のDXCおよびKyndrylが提供するSAPの移行に関するコンサルティング業務の強化を支援した(注5)。さらに同年5月には中国を拠点とするクラウドプロバイダーのAlibaba Groupと提携し(注6)、同地域におけるクラウドERPの導入推進に取り組んでいる。

 「Alibaba Groupは重要なパートナーだ。当社に中国でクラウドサービスを提供できる体制が整った。中国市場は米国やドイツほど大きくないものの、多国籍企業の約90%が中国に拠点を持っている」(クライン氏)

 SAPは中国市場に特化した収益データを公表していないが、CFO(最高財務責任者)のアサム氏によると、米国市場はSAPの第2四半期の売上高全体の約3分の1を占めたとのことだ。

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