「Gemini Enterprise」はなぜM365を取り込むのか AI時代の覇権争いを読み解くAIニュースピックアップ

Google CloudがAIエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise」を発表した。既存のAIサービスと何が違うのか。AIサービスが乱立する中、Googleがこの新サービスを投入する狙いとは何か。その戦略と将来性に迫る。

» 2025年10月15日 08時00分 公開
[村田知己ITmedia]

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 Google Cloudは2025年10月9日(現地時間)、企業向けのAIエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise」を発表した。GoogleのAIモデル「Gemini」を基にAIエージェントを構築、連携したり、Google Cloudのパートナーが開発したエージェントを利用したりできるプラットフォームだ。

Gemini Enterpriseを構成する6つの要素

 発表によれば、Gemini Enterpriseは以下の6つの要素を統合したサービスだ。

  1. Gemini: GoogleのGeminiを基盤とし、さまざまなタスクに「世界最高水準のインテリジェンス」を提供する
  2. ノーコードのワークベンチ: さまざまな部門のユーザーがエージェントを構築し、連携させて業務プロセスを自動化できる
  3. 事前構築済みの Googleエージェント群: 詳細なリサーチやデータ分析などの専門業務に対応するエージェントを導入してすぐに利用できる
  4. 企業のデータに安全に接続: エージェントが「Google Workspace」や「Microsoft 365」の他、SalesforceやSAPなどが提供するビジネスアプリケーションに格納されたデータと安全に連携する
  5. 集約されたガバナンスフレームワーク: 全てのエージェントを一元的に可視化、保護、監査することが可能
  6. エコシステム: 10万社を超えるパートナーエコシステムとのオープンな原則に基づいて構築されており、イノベーションを促進する
Gemini Enterpriseの全体像(出典:Google Cloudの提供資料)

AgentspaceやGoogle Workspaceとの違い

 「AIエージェントがさまざまなサービスを横断して操作し業務をこなすサービス」と言えば、Google Cloudが2024年12月に発表し、既に提供されている「Google Agentspace」(以下、Agentspace)を思い浮かべる人もいるだろう。Gemini EnterpriseとAgentspaceは何が違うのか。

 発表前に開催された記者説明会にてグーグル・クラウド・ジャパンの寳野雄太氏(テクノロジー部門 執行役員)は「AgentspaceはGemini Enterpriseの一部になる。(Gemini Enterpriseは)Agentspaceをベースに、エージェント機能を強化したサービスだ」と述べる。

 Agentspaceにおけるエージェント構築、オーケストレーション技術は、Gemini Enterpriseの「ワークベンチ」という機能に組み込まれる。

 では、Google WorkspaceにおけるAI機能とは何が違うのか。Google WorkspaceのGeminiはあくまでGoogle Workspace内のデータを活用するサービスなのに対して、Gemini EnterpriseはMicrosoft 365など他社のサービスのデータも取得し、それに基づいたチャットbotやAIエージェントを提供する。そのため、Google Workspaceとは全く別のサービスとして提供され、後述の通り、別の料金体系が用意されている。

気になる価格

 Gemini Enterpriseは「Google Cloud」が販売されている全ての国で提供され、日本語もサポートする予定だ。

 導入する組織の規模に応じて複数のプランが提供されるという。本稿執筆時点でメディア向けに公開されている情報では、中堅・中小企業や大企業内の個別部門での導入に適した「Gemini Business」と、大企業向けの「Gemini Enterprise Standard/Plus」が存在する。前者は年間契約で月額21ドルから、後者は年間契約で月額30ドルからの提供になる。

Gemini Enterpriseを提供する意図は?

 結局のところ、Gemini EnterpriseはGoogle Cloudの既存のサービスとは何が違い、これを提供する同社の意図はどこにあるのか。

 「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」、Google Cloudはそれぞれのプラットフォームだけで業務や開発を完結させられるようにさまざまなサービスを展開してきた。しかし現実は、オフィススイートはMicrosoft 365、開発はAWS、データ基盤は「BigQuery」のように、さまざまなクラウドサービスを組み合わせて使う企業も多い。

 AIエージェントが自律的に業務をこなす未来においては、エージェントがさまざまなサービスのデータを横断して利用できる環境が必要だ。その未来に向けた同社の取り組みの第1歩がAIエージェントの連携プロトコル「Agent2Agent」(A2A)の開発であり、2歩目が「職場のAIにおける新たな入口」を標榜(ひょうぼう)するGemini Enterpriseの発表だ(エージェントによる決済を可能にするプロトコル「Agent Payments Protocol」《AP2》は1.5歩目と言えるかもしれない)。

 これまで、企業がGeminiを業務に組み込む方法としては、自社環境にAPI経由でGeminiを呼び出すか、「Vertex AI」でアプリケーションを開発するか、AgentspaceやGoogle Workspaceを導入するか、といった選択肢があった。これでは、開発者でもなく、Google Workspaceユーザーでもない人々にとっては導入のハードルが高い。

 Google Cloudは、まずA2Aを推進して業界を盛り上げるだけでなく、外部のエージェントをGoogle Cloudに接続する道筋を作った。そして、その入り口としてGemini Enterpriseを用意することで、同社はAIエージェント時代のデファクトスタンダードになろうとしていると考えられる。

 気になるのは「Microsoft 365 Copilot」や(Gemini Enterpriseと同日に発表された)「Amazon Quick Suite」との競合だ。AIに仕事を頼む“窓口”をどのサービスが押さえるのか。今後の動向が注目される。

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