Google CloudがAIエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise」を発表した。既存のAIサービスと何が違うのか。AIサービスが乱立する中、Googleがこの新サービスを投入する狙いとは何か。その戦略と将来性に迫る。
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Google Cloudは2025年10月9日(現地時間)、企業向けのAIエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise」を発表した。GoogleのAIモデル「Gemini」を基にAIエージェントを構築、連携したり、Google Cloudのパートナーが開発したエージェントを利用したりできるプラットフォームだ。
発表によれば、Gemini Enterpriseは以下の6つの要素を統合したサービスだ。
「AIエージェントがさまざまなサービスを横断して操作し業務をこなすサービス」と言えば、Google Cloudが2024年12月に発表し、既に提供されている「Google Agentspace」(以下、Agentspace)を思い浮かべる人もいるだろう。Gemini EnterpriseとAgentspaceは何が違うのか。
発表前に開催された記者説明会にてグーグル・クラウド・ジャパンの寳野雄太氏(テクノロジー部門 執行役員)は「AgentspaceはGemini Enterpriseの一部になる。(Gemini Enterpriseは)Agentspaceをベースに、エージェント機能を強化したサービスだ」と述べる。
Agentspaceにおけるエージェント構築、オーケストレーション技術は、Gemini Enterpriseの「ワークベンチ」という機能に組み込まれる。
では、Google WorkspaceにおけるAI機能とは何が違うのか。Google WorkspaceのGeminiはあくまでGoogle Workspace内のデータを活用するサービスなのに対して、Gemini EnterpriseはMicrosoft 365など他社のサービスのデータも取得し、それに基づいたチャットbotやAIエージェントを提供する。そのため、Google Workspaceとは全く別のサービスとして提供され、後述の通り、別の料金体系が用意されている。
Gemini Enterpriseは「Google Cloud」が販売されている全ての国で提供され、日本語もサポートする予定だ。
導入する組織の規模に応じて複数のプランが提供されるという。本稿執筆時点でメディア向けに公開されている情報では、中堅・中小企業や大企業内の個別部門での導入に適した「Gemini Business」と、大企業向けの「Gemini Enterprise Standard/Plus」が存在する。前者は年間契約で月額21ドルから、後者は年間契約で月額30ドルからの提供になる。
結局のところ、Gemini EnterpriseはGoogle Cloudの既存のサービスとは何が違い、これを提供する同社の意図はどこにあるのか。
「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」、Google Cloudはそれぞれのプラットフォームだけで業務や開発を完結させられるようにさまざまなサービスを展開してきた。しかし現実は、オフィススイートはMicrosoft 365、開発はAWS、データ基盤は「BigQuery」のように、さまざまなクラウドサービスを組み合わせて使う企業も多い。
AIエージェントが自律的に業務をこなす未来においては、エージェントがさまざまなサービスのデータを横断して利用できる環境が必要だ。その未来に向けた同社の取り組みの第1歩がAIエージェントの連携プロトコル「Agent2Agent」(A2A)の開発であり、2歩目が「職場のAIにおける新たな入口」を標榜(ひょうぼう)するGemini Enterpriseの発表だ(エージェントによる決済を可能にするプロトコル「Agent Payments Protocol」《AP2》は1.5歩目と言えるかもしれない)。
これまで、企業がGeminiを業務に組み込む方法としては、自社環境にAPI経由でGeminiを呼び出すか、「Vertex AI」でアプリケーションを開発するか、AgentspaceやGoogle Workspaceを導入するか、といった選択肢があった。これでは、開発者でもなく、Google Workspaceユーザーでもない人々にとっては導入のハードルが高い。
Google Cloudは、まずA2Aを推進して業界を盛り上げるだけでなく、外部のエージェントをGoogle Cloudに接続する道筋を作った。そして、その入り口としてGemini Enterpriseを用意することで、同社はAIエージェント時代のデファクトスタンダードになろうとしていると考えられる。
気になるのは「Microsoft 365 Copilot」や(Gemini Enterpriseと同日に発表された)「Amazon Quick Suite」との競合だ。AIに仕事を頼む“窓口”をどのサービスが押さえるのか。今後の動向が注目される。
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