AI時代に改めて問う「DX人材育成の勘所」 デルの取り組みから考察Weekly Memo

企業がDX人材を育成する上で重要なのは、デジタル技術の修得もさることながら、それを業務に生かせる人材の確保だ。さらにAI時代に向けた企業のDX人材育成の勘所とは。デルの新たな取り組みから探る。

» 2026年04月06日 13時30分 公開
[松岡 功ITmedia]

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業の増加に伴い、それを推進する人材の不足が懸念されている。デジタル技術の修得もさることながら、肝心なのはそれを業務に生かせる人材の確保だ。最近ではそうした動きにAI活用が拍車を掛ける格好となっている。そんな問題意識を抱いていたところ、米Dell Technologiesの日本法人デル・テクノロジーズ(以下、デル)がデジタル人材の育成について新たな取り組みを始めたので、この機にAI時代に向けた企業のDX人材育成の勘所を考察する。

デルが推進するDX人材育成の取り組みとは

 デルは2026年3月27日、AIをはじめとしたデジタル技術を活用する人材の育成に向けた包括的な取り組みについて記者説明会を開いた。この取り組みは「テクノロジーで日本の未来を切り拓く人材を育成する」ことをコンセプトに掲げ、あらゆるフェーズの人材育成を支援することを目的としている。

デル・テクノロジーズの藤森綾子氏(常務執行役員 ソリューションズアーキテクト統括本部長)(筆者撮影)

 説明に立った同社の藤森綾子氏(常務執行役員 ソリューションズアーキテクト統括本部長)はDXにおける日本市場の課題として次の3つを挙げた

 同氏が挙げたのは「労働力不足」「生産性、リスキリングの必要性」「次世代育成、共創の場」の3つで、「日本での次世代のDX人材育成に向けて、デルとして少しでも貢献できればと考えている」と述べた(図1)。

図1 DXにおける日本市場の課題(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)

 デルの包括的な人材育成プログラムは、これまでも実施していた、次世代リーダー向けに自治体と連携しデザイン思考を学ぶ「Next Gen Leaders Program」(以下、NGLP)に加えて、新たに2026年4月よりITビギナー向け「ITインフラストラクチャ基礎講座」と、IT中堅技術者向け「AI講座」を追加し、本格的に提供開始するといった内容だ。

 同社はこの取り組みについて、「AIやクラウド、データといったテクノロジーが急速に進化する一方で、日本では人材やスキル、学びの機会の不足がDXと成長のボトルネックになりつつある。企業や自治体、教育機関だけではカバーしきれないこのギャップを埋めるために、デルは世界で培った知見と日本国内での豊富な実績を結集し、誰も取り残さないデジタル人材育成のプラットフォームとして包括的な人材育成プログラムを本格展開する」と説明している。

 上記の3つのプログラムについて、以下に概要を紹介しよう。

 1つ目のNGLPは、「企業の次世代リーダー候補が地域のリアルな社会課題に向き合い、デザイン思考とデジタル活用を通じて解決策を創出する、9カ月間の長期プログラム」だ。2024年にスタートし、今年で3回目を迎える。

 参加者は特定の自治体が抱える課題をテーマに、デジタル技術を活用した社会改善の企画を立案し、最終的に自治体への提案まで実施する。業界横断で日本を代表する企業の次世代リーダー候補が集い、公民連携で日本のDXと地域の未来を共にデザインする場として機能しているという。これまでは2024年に埼玉県さいたま市、2025年に千葉県印西市で実施した。2026年実施分は現在準備中とのことだ。

 同社は、「地域の課題に向き合いながら、テクノロジーを“コスト”ではなく“価値創造の武器”として捉え直す経験を通じて、日本の未来を切り拓くデジタルリーダーを育成するプログラム」だとアピールしている(図2)。

図2 Next Gen Leaders Programの概要(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)

 2つ目のAI講座は、「現場で活躍するIT部門の中堅技術者層を対象に、AIの基礎からビジネス適用までを短期間で集中的に学ぶプログラム」だ。AI初心者でも、自社の業務や組織にAIをどう組み込み、成果につなげるかを具体的に描けるレベルをゴールに設計しているという。1日コースと3日コースの2種類を用意し、企業向けに実施する。

 具体的なテーマは、「生成AIを含むAIの基本原理と最新動向」「プロンプト設計、業務プロセス自動化など、現場に直結するハンズオン演習」「AI活用におけるガバナンス、セキュリティ、プライバシーの要点」「自社の業務・サービスへの具体的適用シナリオの検討とディスカッション」などを予定している。

 同社は「単なるAIの説明会にとどまらず、ハンズオンを含めた実践的な学びを通じて、参加者が自社に持ち帰り、自らの意思でAIプロジェクトを前に進められる実践的なリーダーとして育つことを目指している」とアピールしている。

 なお、図3はシンガポールでの取り組みの例で、こうした活動のノウハウを日本での取り組みにも生かしていく構えだ。

図3 シンガポールでのAIに関する取り組みの例(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)

DX人材育成は企業の一大プロジェクトとして進めよ

 3つ目のITインフラストラクチャ基礎講座は、「IT インフラの基礎を体系的に学べる無償の対面式講座を新たに開講し、受講者の募集を開始する。この講座は“現代の読み書きそろばん”としてのITリテラシーを、誰もが短期間で身につけられる場を目指している」とのことだ。コースは、全8カテゴリー(10セッション)にわたる総合コース(最短3日間)と、2つのカテゴリーに絞ったエッセンシャルコース(半日)の2種類を提供する。

 同社は、「多くのIT人材はアプリケーション層の知識習得に注力する一方で、電気やガス、水道のように当たり前の存在と見なされるインフラについては、十分に理解されていないのが現実だ。しかし、パフォーマンス、スケーラビリティ、セキュリティを確保しながら安定稼働するアプリケーションを開発し運用するには、土台となるITインフラへの深い理解が不可欠だ。こうした課題に対応するため、この講座を開始する」とアピールしている。

 総合コースでは、「コンピュータと情報」「ITインフラストラクチャ概要」といったIT技術の基礎から、サーバやストレージ、ネットワーク、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティング、生成AIをはじめとするAIなど、多岐にわたるITインフラの基礎知識を体系的に学ぶことで、実務に直結するITリテラシーを身に付けられる。また、エッセンシャルコースでは、「コンピュータと情報」「ITインフラストラクチャ概要」の2つのカテゴリーを最短3時間で効率的に学習可能という(図4)。

図4 ITインフラストラクチャ基礎講座の概要(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)

 藤森氏は今回の取り組みへの思いとして、「テクノロジーがかつてないスピードで進化する今、日本の成長を左右するのは“どれだけ最新の技術があるか”ではなく、“それを使いこなす人材がどれだけ育っているか”だと考えている。今回の包括的な人材育成プログラムは、ITインフラの基礎、AI、次世代リーダー育成などを包括的に支援することで、テクノロジーで日本の未来を切り拓く人材を育成するためのプラットフォームだ。AIを中心とした最新のテクノロジーを理解することは、もはや一部のエンジニアだけの専門スキルではなく、現代のビジネスパーソンにとっての必須教養になりつつある。この人材育成プログラムを通じて、一人でも多くの方がテクノロジーへの理解と自信を深め、自らのキャリアと日本社会の未来を自分の手で切り拓いていくことを心から期待している」と語った。

 特に「最新のテクノロジーを理解することは、もはや一部のエンジニアだけの専門スキルではなく、現代のビジネスパーソンにとっての必須教養になりつつある」との見解は、筆者も全く同感だ。

 さらに、筆者がこれまで取材してきた観点から、冒頭でも述べたように、肝心なのは、デジタル技術を業務に生かせる人材の育成だ。そのためには、それぞれの企業における業務を理解していることが前提となる。それでこそ、業務にデジタル技術を落とし込み、どこまでのことができるかが浮き彫りになってくる。

 これまでの業務のIT化では、その作業を業務部門とIT部門が議論しながら進めてきた。筆者の印象では、IT部門が弱いところは業務のIT化も進まなかった。それがAIを含めたDXとなってくると、業務部門においてDX人材をどんどん育成することが企業競争力に直結するようになってきた。さらにAI活用については、AIに対して「何をどのようにするのか」「なぜ、それをするのか」「どのような結果を求めているのか」といった「指示する力」を磨く必要がある。

 そうした人材育成の取り組みをそれぞれの企業で「一大改革プロジェクト」として行い、その中でデルのようなベンダーに、テクノロジーとともに参考になるユースケースなどの情報のサポートをもらえばいいだろう。言い換えれば、企業の一大改革プロジェクトとして行うことが、DX人材育成の最大の勘所だと考える。これはまさしく経営トップ自らが大号令を出すべき話だ。

 ちなみに藤森氏によると、デルにおいても上記で紹介したNGLPの取り組みで、企業向けにも業務の課題解決をテーマに次世代リーダーやCxOを対象とした活動へ広げる計画だ。

 DXで日本企業は強くなる。そのキーとなるのはAIだ。ここまでこの原稿を書いてきて、そうした思いが強くなった。この視点を検証するためにも、引き続きDX人材育成の取材を続けていきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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