生成AIを使えば仕事は速くこなせる。だが、その便利さと引き換えに管理職が失うものがある――。米国、英国、スイスの研究者チームが発表した論文は、生成AIへの過度の依存が判断力をむしばむ仕組みを説明するものだ。AI利用によって損なわれる「判断力」とは具体的に何か。
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職場での生成AIの利用は2026年に入って一段と広がり、従業員自身が「使い過ぎている」と認めるケースも出てきた。米IT企業のGoToが2026年5月(現地時間)に公表した調査によると、従業員の半数が「職場でAIに依存し過ぎている」と回答した。「AIなしでは仕事ができない」と答えた層も、少数存在する(注1)。
この調査では、AIへの依存が「自分のスキルが衰えたのではないか」という不安を生んでいることも分かった。Z世代の従業員の46%は「AIに頼ることで自分は知的でなくなった」と回答した。雇用主が従業員にAIの利用を迫っている中、この回答結果は多くの企業に示唆を与えるものだ。
こうした中、米国、英国、スイスの大学に所属する研究者チームが経営学の学術誌『Academy of Management Review』で発表した論文(注2)が、管理職に特有のリスクを指摘した。生成AIに頼り過ぎた管理職は、ある種の能力を失う可能性があるという。この現象は、強い時間的プレッシャーの下で、問題に深く向き合う代わりにAIを「近道」として使う管理職に特に起こりやすい。
では、具体的にどのような能力が損なわれるのか。
英国University of Bathのダーク・リンデバウム(Dirk Lindebaum)氏(経営学部教授)らの研究チームは、AIへの依存によって能力が失われる現象を「認識的デスキリング」(epistemic de-skilling)と名付けた。実務の経験や内省、人との関わりを通じて通常は培われるはずの、知識に関わる能力が失われていくことを指す。
具体的には、アイデア出しのような業務をAIに任せるうちに、管理職は倫理面の洞察力や状況を読み解く文脈理解力、業務に関する知識の3つを積み上げにくくなる可能性があるという。
リンデバウム氏はプレスリリースの中で、「生成AIは管理職が直接の経験から学べるはずの教訓を代替してしまうため、スキルの成長に問題が生じる」と述べた。加えて、生成AIの出力内容には、「複雑な意思決定に必要な文脈や倫理的判断が欠けている」とも指摘する。
「人間とは違い、AIは世界を経験することも、意思決定がもたらす結果を理解することも職場の社会的・感情的な複雑さを把握することもない。既存のデータに見られるパターンに基づいて回答を生成しているだけだ」(リンデバウム氏)
従業員がAIに頼るとスキルが低下し得ることを示した研究は、今回が初めてではない。人事部門は、AIの使い過ぎが起こり得ることを織り込んだ人材マネジメント計画の策定を検討する必要があるかもしれない。
ただし、AIが常に管理職にとって有害だとは限らない。研究チームは、AIを内省のための道具として使う「認識的アップスキリング」(epistemic up-skilling)という道筋を示した。AIを使って自分が前提とする認識を疑い、推論を検証し、別のシナリオを検討する使い方だ。「この枠組みの下では、AIを使うことで自分の選択と行動の結果をより深く考えられるようになる」(リンデバウム氏)
人間の方が得意な傾向のある「持続的なスキル」(durable skills)を、AIが再現するのは難しい可能性もある。AIを活用した履歴書作成サービスを提供するResume Nowが最近公表したある分析(注3)はそれを示すものだ。同社は、口頭で表現する力、問題を察知する力、演繹(えんえき)的推論といった能力が、進化するAIを管理する上で鍵になる可能性があるとした。人事分野の識者も、AI主導の時代に働く上で鍵となる人間のスキルとして、批判的思考やデータを判断する力を挙げている。
出典:Generative AI overuse may hurt leaders’ judgment, researchers warn(HR Dive)
(注1)The Pulse of Work in 2026: Opportunity, Risk, and Responsibility in an AI-Driven Workplace(GoTo)
(注2)A Process Model of Managerial Phronesis in the Age of Generative AI(Academy of Management Review)
(注3)Resume of the Future Report(Resume Now)
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