第2章 ASPフィーバー in Japan(1)構図が変わる(2)

» 2000年07月05日 12時00分 公開
[吉田育代,@IT]

短期間で驚くほどの盛り上がり

 昨年から今年の6月までに掲載された、ASP関連のニュースを拾ってみた(表1)。もちろん、これがすべてではない。ざっと数えたところでは、新聞発表だけでも総数は約170件を越えている。それだけでなく、専門紙がASPをテーマに企画記事や広告特集を組み、「日経コンピュータ」「日経システムプロバイダ」「INTEROP MAGAZINE」などといったエンタープライズ系のIT雑誌が特集企画にASPを取り上げた。

Fsas、来月からASP事業、ソフト管理や本人認証 2000/03/02
日経産業
富士電機のコスト部門戦略、事務“技術”をネット販売
――ASPで日銭稼ぐ
2000/03/02
日経産業
オリンパスシステムズ、来月から、アパレル向けASP
――店舗情報管理を支援
2000/03/03
日経産業
日本ユニシス・東北電力、建設業向けASP事業
――設計ソフト提供、情報共有化支援
2000/03/06
日経産業
日本電子計算 7月からASP事業 介護支援ソフトを提供 2000/03/06
日本工業新聞
金融向けASPやコンサル、ソリューション営業強化
――沖電気、500人を増員
2000/03/09
日経産業
松下電工、ASP参入、文書・商品情報など発信 2000/03/10
日経産業
介護保険対象サービス事業、報酬、ネットで電子請求
――三菱総研、来月からASP
2000/03/14
日経産業
ソフト開発のシー・ウェイ、個人商店向けASP――顧客管理や販促メール 2000/03/15
日経産業
三菱電機、ASP参入――来月に新会社、ノウハウを結集 2000/03/23
日経産業
エー・アイ・ピー、ASPネット調査サービス
――利用者が設計・運営(技術を起こす)
2000/03/27
日経産業
ロータスとオリックス提携、ASP普及を後押し 2000/03/30
日経産業
日電ソフト、ASP事業、中小向け本格展開――NEC以外も開拓 2000/03/31
日経産業
アマノ、人事業務処理、ASPで提供 2000/03/31
日経産業
ASPで図面管理、新日鉄、建築業・自治体向け 2000/03/31
日経産業
ネット通じ生活情報など提供、NTT東が地域密着事業
――中小向けASPも展開
2000/04/03
日経産業
NEC、ASP、体系化し販売――ソリューション提供を一貫 2000/04/07
日経産業
レイヤーセブン、ASPで人材管理――業務統合システム開発 2000/04/07
日経産業
日本IBMとA&I ASP事業などで提携 2000/04/20
日本工業新聞
携帯向けにASP、カイエンシステム開発、営業支援ソフト提供 2000/04/24
日経産業
KCS、ASPに進出、まず事務系のグループウェア 2000/04/24
日経産業
ビートレンド・ドットコム、ASPでメール広告――配信ソフトを提供 2000/04/26
日経産業
東電コンピュータサービス、ASP事業進出、地図情報と業務用ソフト 2000/05/12
日経産業
スキル・インフォメーションズ、ソフト制作ASPで仲介
――ネット上で他社製結合
2000/05/24
日経産業
ソフト流通、アシスト、ASP向け参入――スコア・ドットコムと提携 2000/05/25
日経産業
ジャストシステム ASP、個人向けサービスを来月開始 2000/06/06
日本工業新聞
表1 新聞発表されたASP関連のニュース(一部抜粋、詳細はこちら http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/rensai/asp02/news.html )

 ASPインダストリーコンソーシアムへの加盟社は、現在約200社。事務局によると当初の加盟企業目標数は30社で、その30社も集めるのに苦労するだろうと思っていたという。ところが蓋をあけてみると、設立時で40社が集まり、今年の1月には115社となり、その後も加盟企業は増え続けている。サン・マイクロシステムズと、日本シスコ・システムズ、日本オラクルの3社がデータセンター設立支援のためのインターネット・データセンター・イニシアチブ構想を発表し、事業者向けにその説明会を開催したところ、3500人の出席者があった。今年6月7日に開かれたNetworld+Interope併催「ASP Summit Tokyo Spring」では、基調講演とセミナーで4015人もの来場者を数えた。

 身近でも、SI企業で営業職を務める友人がいう。「最近出てくる案件は、全部ASP形式でといわれる」 思えばこれらはすべて、ほぼここ半年の出来事なのだ。ASPがトレンドである。そのことにもう異論をはさむ人はいないだろう。

 ここのところ、日本の調査機関もASP市場予測を発表し始めている。5年後のASP市場規模を、IDC Japanが764億円、デロイトトーマツコンサルティングが3054億円、日本ガートナーグループデータクエスト部門が3127億円とそれぞれ報じた。この3社の間ですでにバラつきもあることからもわかるように、一般に市場予測は非常に難しい。その数字には心せねばならないが、すでに数年前からその名があるCTI市場の2003年の規模予測が、約3580億円(出典:株式会社ミック経済研究所)であることを考えると、急速に立ちあがる市場とみなされていることは確かだろう。

「メニューを絞っても早く参入したかった」

ALT 写真1 NTTデータ 取締役新世代情報サービス事業本部長 宇治則孝氏

 株式会社NTTデータは、今年1月、ASP事業の第1弾としてグループウェア・アプリケーション「ASPORT(エーエスポート)」(http://www.asport.ne.jp/)をサービス・インした。ASP事業参入の発表からわずか3ヶ月。スピーディーな動きだった。同社取締役新世代情報サービス事業本部長 宇治則孝はこう語る(写真1)。

「昨年9月に米国に行き、活発に動き出しているASPを目の当たりして、これは本物のトレンドだと思った。われわれも絶対に手がけるべきだ、それも始めるならできるだけ早く、と考えた。1つにはASPインダストリー・コンソーシアムの主要メンバーであり、ASPを世の中に広めるために具体的な商品が必要だったということもある。しかし、それ以上にインターネットビジネスというのは先行者に利益があると考えたことが大きい。ASPならNTTデータの動きをみておこう、話を聞いてみようとユーザー企業に思ってもらうためにも、提供するメニューを絞ってでもできるだけ早く参入したかった。半年も考えている余裕などなかった。1月でも遅かったぐらいで、ほんとうは12月中にでもサービス・インしたかった」

 その判断は正しかったようで、1月のASP Summitでの正式発表後、ASPORTをモニター利用したいという企業が殺到した。当初、NTTデータでは中堅・中小企業向けソリューションと考えていたのだが、大企業からも多数の引き合いがあり手応えを感じているという。第2弾以降のサービスとして、営業支援サービス、人事管理サービス、Web受発注サービス、財務会計支援サービスなどの提供を考えており、3年後には全体で100億円規模の事業に育てたいと宇治は意気込んでいる。

ALT 写真2 日本電子開発 代表取締役社長 岡田昌之氏

 日本電子開発株式会社の代表取締役社長 岡田昌之がASP事業への参入を決めたのも、米国の昨年11月のITベンダー視察がきっかけだった(写真2)。あのマイクロソフトが「もはやOSビジネスだけでは生き残れない。カギはASPだ」と危機感をあらわにして、アプリケーションノウハウを持ったコンパックのDEC部門との協業構想を語った。シスコ・システムズも「今まではネットワーク分野のハードウェアを売ってきたが、これからはネットワーク・ソリューションを提供する」と言って、良質のコンテンツを有したプロバイダとのアライアンスを迅速に進めるため、米国東海岸の都市ボストンへ進出することを明らかにした。ニューヨークのホテルに着いてみれば、テレビはドットコム・カンパニーのCMを次から次へと流している。岡田の頭の中で、ASPとドットコムの2つが結びついた。そして、すぐさまホテルの部屋から部下へメールを送るのである。「mycabi.comを立ち上げろ」と。mycabiというのは同社が販売する、Lotus Notes/Domino上のワークフローアプリケーション。それをASP形式ですぐに始めろというわけだ。

「長年、ITビジネスが労働集約産業であることを憂いていた。結局は人が働かなければ収益にはならず、ゴルフなどしていたら、そのときお金は入ってこない。このままではきっと行き詰まる、何か仕掛けで稼ぐ仕組みがあるはずだと思っていたところへ、米国のトップITベンダーたちが危機感を抱きながら、これからはASPだ、ソリューションだという。“これだ!”と直感でひらめき、mycabiのASP化が頭に浮かんだ。思いたったら一瞬も待てない性格で、メールで“動け”と指示をした」

 実際には、サーバーホスティングや代金回収の方法、セキュリティの確保といった部分でいくつか越えなければならない壁があり、サービス・インには数ヶ月を要することになる。しかし、岡田の即断もまた、日本でASPに火がついた理由の1つを象徴していて興味深いものがある。

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