〜第4回 あらためて成功するeビジネスを考える〜特別連載:ITアナリストに聞け!梅山貴彦の「eビジネス展望」

» 2001年05月30日 12時00分 公開
[梅山貴彦,@IT/イーシーリサーチ株式会社 ]

<今回の内容>

■利益の出せるビジネスこそが原点

■バブルを経て、巨大産業へ成長する

■なぜ、eコマースの中心が卸売り業・製造業なのか

■いまこそ、eビジネスを考える時期



利益の出せるビジネスこそが原点

 eビジネスとは、広義にはインターネットを利用した商取引全般である。その中には、商品を販売する手段として、会社の広告・宣伝活動として、顧客へのアフターサービスを提供する方法として、会社の求人の手段として、といった用途がある。eビジネスをうまく活用すれば、利用者側ではコストを画期的に削減でき、顧客や事業範囲を効率的に拡大できる。そんなわけで、eビジネスは、日本経済にとっても重要なけん引役として、もてはやされてきた。これまでは。

 しかし、米国では、eビジネスに対する投資家の性急な期待と現実の落差から、ネットバブルの崩壊が起きた。できたての会社が乱立して、商売の先行きが危ないところもたくさんある。結局は、eビジネスであろうが、リアルのビジネスであろうが、ちゃんともうかるかどうかが大事なのである。小さくてもきちんともうけを出している会社が、eビジネスをうまく取り込むことで、大きく飛躍できるのである。

 現実は、現状のビジネスでも利益を出していないというのに、インターネットを使ったからといって、それだけで簡単に利益を出せると思った会社がこれまで多過ぎたのだ。eビジネスを始めるときに、もしくは始めた後でも、もう一度顧客にとって何が価値なのか、それを考えながら、自分のeビジネスをつくっていかなければならない。

バブルを経て、巨大産業へ成長する

 今日の日本は、老舗のデパートや銀行、建設会社といった企業が多量の負債を抱え、会社更生法の適用を受けなければならないような状況である。また、eビジネスのインターネットバブルの崩壊が起こり、経営が危ぶまれるネットベンチャーも増加している。確かに、日本経済を見たとき、金融機関に存在する巨額の不良債権や、国の赤字国債など、問題は山積みである。構造不況を招き、企業の発展を妨げているかのごとくである。

 しかし、実態は単純で、単なる変化の時期をいままさに迎えているというだけにすぎない。例えば、歴史ある老舗の企業が倒産するというのは、戦前、戦後のバイタリティあふれる創業者の時代が終わって、これまで会社の屋台骨を支えてきた人たちが、会社からいなくなる時期になってきた、もしくは時代とちょっと合わない時期になってきたのである。50年も60年もたてば、過去にどんなに優れたリーダーであったとしても、いつかは去る日が来るのである。いまがちょうど、その企業を導くリーダーが代わる時期なのだろう。

 第二次世界大戦の後、日本の復興とともに、雨後のたけのこのように会社ができたそうだが、そのほとんどが露と消えた。いまでも残っているのは、現在のソニーなど、ほんの一握りだけである。いまは、ちょうどこの戦後復興期のようなものである。新しいものが登場してきて、その期待感がバブルを生み、崩壊する。

 それと同じ状況が、80年前にも起きていた。車や機械などが世に出てきて、新しい産業への期待感が高まり、株価が高騰して、一時的に事業がそれについていけず、世界恐慌を呼び起こしてしまった。

 歴史は繰り返す、人間の要求とは常にせっかちなものだ。ネットベンチャーが不安定なのは、考えてみれば当然のことである。しかし、昔は同じようにベンチャー企業だった自動車産業も家電産業も、いまでは巨大産業である。eビジネスも同様である。心配しすぎなくても大丈夫だ。

なぜ、eコマースの中心が卸売り業・製造業なのか

 日本でのeビジネスの可能性として、どの産業が電子商取引に適しているのか、考えてみた。一番適しているのは、自動車産業である。生産から販売までの過程が非常に複雑であり、その一連の流れの中に、多数の会社がからんでいる。こういう産業では、急速に電子商取引が発展していくだろう。関係している会社が多ければ多いほど、利害関係が膨らみ、さらに利益を出そうとして、eビジネスが発展するのだ。

 コンピュータや家電製品も、多くの利害関係がからんでいるから、これも成長するだろう。結果的に、目に見えるものがあって、多くの人の手を介していくものが、eビジネスでは可能性があるようだ。最近、弊社(ECR)から発表した電子商取引の市場規模の数値を見ると、卸売業や製造業が、電子商取引の中心となっている。つまり、繰り返しになるが、目に見える形あるものを扱っている商売ということである。

ALT 図1 電子商取引(eコマース)の売上金額
Source:EC RESEARCH、 2001/5

いまこそ、eビジネスを考える時期

 それで、電子商取引の課題は、情報のような形のない商品の電子商取引である。昔はこういう形のない商品のほうがデジタル化できるから可能性が高いと思っていたし、つい最近までそういっていた。

 しかし現実は違うようだ。期待の高かった音楽のダウンロードもまだまだもうかっていない。情報というものは、一度受け取ってしまえば、コピーがすごく簡単で、何度も繰り返し使われてしまうし、値段も安い、ほとんどただである。だいたい、時間がたてば、昔の情報は情報としての価値を失う。ほんとうだったら、デジタルデータでもうかれば在庫も要らないし、コピーが簡単なので製品コストもかからず、会社としてもすごくもうかるのだが、現実は厳しかった。

 なんとかして、情報をインターネットで多くの人に売る方法を考えなければいけない。いまのところ、形のない情報の電子商取引でもうかっているのは、旅行会社や航空会社の予約サービスがある。ほかには、インターネットを使った広告や販売促進で依頼主からお金をもらうというものもある。ソフトウェアのダウンロードサービスももうかり始めているようだ。とにかく、考えるしかないのである。

(第5回へつづく)

著者プロフィール

梅山貴彦

情報産業界で15年の経験を持つIT関連のアナリスト。IDC Japan株式会社では調査担当副社長を務め、eビジネス、インターネット、パソコン、PDA、コンシューマ機器、ネットワーク、コミュニケーションなどの調査分野を統括。2000年9月にイーシーリサーチ株式会社(以下ECR)を設立、代表取締役社長に就任。ECRでは、調査プログラム全体の設計や新しい概念の調査手法なども推進している


略歴

1986年2月 テクノシステム・リサーチ アシスタント・ディレクター

1989年11月 株式会社日立ハイソフト マーケティング部

1990年1月 株式会社日立製作所 パーソナルコンピュータ 商品企画部

1993年1月 IDC Japan株式会社 リサーチグループ シニアアナリスト

1997年5月 同社 調査担当副社長就任

2000年9月 イーシーリサーチ株式会社 代表取締役社長 & CEO就任

*ECRホームページ「e談話室」もご覧ください


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