GE(ゼネラル・エレクトリック)社が取り組んだことで有名となったシックスシグマも、実はSee-Plan-Doの考えを提言している。シックスシグマではSee-Plan-Doとはいわず、MAIC(Measurement:測定、Analysis:分析、Improvement:改善、Control:改善結果定着のためのコントロール)としている。
シックスシグマというと高度な統計手法に基づく品質管理手法だと考える人が多いが、シックスシグマの本質はSee-Plan-Doにこそある。何が問題なのかが知らずに行動は起こせない、そして問題は調べずには分からないと教えるのがシックスシグマのエッセンスである。検査から始める医療と同じ考えである。
科学者は、研究対象の本質を追究するためにモデリングという手法を使う。この手法、実はそれを考え出したのは科学者ではなく、“生物”である。
われわれの身体は常に新たな病原体にさらされている。われわれが病気ばかりにならずに済んでいるのも免疫というモデリングの仕組みによるものだ。われわれの体は生まれたときからずっと病原体と戦って、抗体を作り上げている。新たな病原体と出合うと過去に戦って勝ってきた病原体の記憶モデルと照らし合わせて、似ているモデルから有効そうな抗体を作り出す。そうして学習を積み上げることで環境適合力を高めていくのである。
科学者が使うモデリングも同じで、実験と仮説を積み上げていくことによって、モデルの精度を高めていく。そしてそのモデルが実世界を説明したり取り扱うのに有効であれば社会でも利用される。需要予測や消費者行動予測のためのさまざまな多変量解析手法もこうしたモデリング手法の1つである。
企業における経営活動でも同じことがいえないだろうか。仕事のやり方にもいえないだろうか。仕事ができる人間のSee-Plan-Doも、シックスシグマのMAICも結局、プロトタイピングや測定によって対象となる問題をモデリングしようとしている。
正体を完全に暴くことが難しい諸問題をモデリングという手法でレーダー・サーチし、実際の対応を通じてより詳しい情報を得てモデルを修正し、より望ましい行動を取れるようにしていくのである。
生物が初めて出合ったものには用心深く、熱いとか痛い、怖いといった体験(当然、おいしい、楽しいといううれしい体験もある)を通じて環境に適合していく姿こそ、変化の激しい現代社会に対応していかなくてはならない企業が学ぶ知恵ではないだろうか。
自社を取り巻く内外経営環境(SWOT:強み、弱み、機会、脅威)をタイムリーにそして詳細に知る力を持つためにこそ、企業は情報システムを構築しなければならない。だからこそBI(ビジネスインテリジェンス)やバランスト・スコアカードに取り組まなくてはならないのである。分析のための分析など要らない。計画のためにこそ分析はあるのだ。明日より、仕事はプランではなくレビューから始めようではないか。
杉浦 司(すぎうら つかさ)
立命館大学経済学部、法学部卒業、関西学院大学大学院商学研究科修了。京都府警察本部、大和総研を経て杉浦システムコンサルティング,Inc設立。情報システム(ERP・SCM)、ITマーケティング(CRM、データマイニング)、情報セキュリティ(ISMS、プライバシーマーク)をテーマとするシステムコンサルティングを展開。著書に『よくわかるITマネジメント』(日本実業出版社)、『データサイエンス入門』(日本実業出版社)他多数。システムアナリスト、システム監査技術者、アプリケーションエンジニア、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト
杉浦システムコンサルティング,Inc
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