ビジネス強化に役立つ経営センサーの種類と機能──ISO 9000のプロセスアプローチで計測個所を設計する情報活用経営とビジネスインテリジェンス(4)(2/2 ページ)

» 2004年09月01日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
前のページへ 1|2       

ISO 9000のプロセスアプローチで計測個所を設計する

 経営センサーの設置場所はISO 9000のプロセスアプローチで考えることが有効である。ISO

9000では品質に限定しているが、すべての経営指標の収集についてのプロセスアプローチは効果的である。

 われわれの体がさまざまな機能を持つ組織に分かれているように、企業もさまざまな機能を持つ組織に分かれている。ただ、企業の組織に注意が必要なことは明示的な組織とは別に実体としての組織が存在することである。それを見落とさないようにするためには、プロセスアプローチが有効なのである。

ALT 図3 ISO9000のプロセスアプローチ

 プロセスアプローチでは自社組織の中にも内部顧客を想定する。顧客があるところに満足と不満が存在する。そこにセンサーを置くのである。この考え方はトヨタのかんばん方式で部品や中間製品、製造済みパレットなどの置き場所をストア(店)と呼ぶのと非常に似ている。

ケーススタディ:在庫管理における“計測”

 プロセスアプローチに基づく計測個所の設計例を示してみよう。

 在庫管理は多くの企業にとって永遠の課題であろう。過剰在庫は抑えたいけれども、在庫切れは顧客離れを引き起こしかねない。

 在庫補充の方法としては、一般的に定量発注方式と定期発注方式とがある。定量発注方式では在庫がある水準(発注点)に達したときに発注する。これに対して、定期発注方式ではあらかじめ在庫水準を決めておくのではなく、その時点での需要を予測して発注量を都度決定する。昨今、多くの企業において顧客ニーズが多様化し、注文は多品種小ロット化傾向が強まっており、あらかじめ在庫水準を決めておく定量発注方式では対応できなくなってきている。

 定量発注方式では、在庫管理担当者は商品さえ見ておけば問題なく補充できていた。しかし、補充してすぐに在庫切れが生じたかと思えば、いつまでたっても商品が減らないという状況が続くにつれて、商品だけを見ていても駄目だということに気が付くのである。センサーを商品棚に設置して在庫数の増減だけを監視するような情報システムでは過剰在庫と在庫切れを防止できないのだ。そこで登場してくるのが定期発注方式である。

 定期発注方式では顧客側の需要と調達側の能力を予測することによって、適切な発注数を決定する。そのために、顧客側の需要と調達側の能力を測定するためのセンサーを設置する。

 需要のためのセンサーは、出荷データや注文データを材料とする指数平滑法などによる需要予測である。能力に関するセンサーとしては、保管スペース、調達先のリードタイム、ロケーションなど物流要員の作業時間などがあるだろう。そして、需要予測と能力管理の延長線上には、顧客や取引先とのサプライチェーン・マネジメントが見えてくる。

IT武装で変化を察知して先手を取る

 ITは、かつての省力化を目的としたコンピュータ利用法“データプロセッシング”とは異なる。

 他社よりも速くそして有利な対応を見つけるためにセンサーを置いてさまざまな情報を収集し、頭脳に当たる分析ツールで先を予測して最適な行動計画を策定して実行部隊に伝達する──そのための技術こそITである。そこにはコスト削減ではなく、まさに勝つための道具としての顔があることを理解しなければならない。

profile

杉浦 司(すぎうら つかさ)

立命館大学経済学部、法学部卒業、関西学院大学大学院商学研究科修了。京都府警察本部、大和総研を経て杉浦システムコンサルティング,Inc設立。情報システム(ERP・SCM)、ITマーケティング(CRM、データマイニング)、情報セキュリティ(ISMS、プライバシーマーク)をテーマとするシステムコンサルティングを展開。著書に『よくわかるITマネジメント』(日本実業出版社)、『データサイエンス入門』(日本実業出版社)他多数。システムアナリスト、システム監査技術者、アプリケーションエンジニア、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト

杉浦システムコンサルティング,Inc

http://www.sugi-sc.com/


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ