ユーザー企業がITスキル標準を活用する場面〜自社のシステム部門の人材育成・評価と、ベンダ選定時の評価ユーザー企業から見た「ITSS」(3)(2/3 ページ)

» 2005年12月03日 12時00分 公開
[島本 栄光(KDDI株式会社),@IT]

ユーザー企業でもITスキル標準をうまく活用できる

 以上のように、ユーザー企業においては、社員の評価の仕組みにITスキル標準をがっちりと組み込んでいくことは、通常考えられません。そして、このことがユーザー企業に、「ITスキル標準は関係ないもの」というイメージを大きくさせている1つの要素にもなっています。

 ただし、部分的にITスキル標準を活用して、人の評価に関連付けることは可能です。逆にいえば、がっちりとITスキル標準を組み込むことはハナから考えずに、「部分的に使える部分を評価に上手に活用する」というくらいの感覚でいいかと思います。

 一方で、ユーザー企業においては、人材育成の方にITスキル標準が活用できる部分がかなりあると思います。評価と育成は表裏一体であり、評価に使えないのに育成だけに使えるというのはおかしいと思われるかもしれません。確かに、評価にがっちりと組み込むのは困難ですが、部分的にうまく使える部分は使い、さらにそこで育成と連動させて考えるというのは、おかしな話ではないと思います。

 例えば、ユーザー企業における情報システムでは、それなりの機能や役割、または担当業務といったものが定義されているかと思います。明文化されていなかったとしても、なんとなく漠然とそういったファンクションが決まっていることでしょう。

 ここで、なかなか思ったように人材が育たない、成長してくれないと悩んでいる企業があるとします。この場合、このユーザー企業が行うべき業務と、いまいる人材のスキルとに大きなギャップが存在しており、それが明確になっていないということがありがちです。では、そのギャップをどのように埋めればよいのでしょうか。

 そこで、ITスキル標準の登場です。自社の求める人材を大まかにITスキル標準の職種から見いだし、その職種のレベル定義を確認します。そして、自社の社員がどの程度かを認識し、これまで漠然と感じていたギャップを多少なりとも明確化することができるわけです。ここまで整理できたら、後は、そのギャップを埋めるために、どのような育成プランを立てていくかということになります。残念ながら、ITスキル標準では1人1人の人材レベルアップのための育成プランまでは細かく示してくれていません。ただし、必要な知識項目やスキルの熟達度などが具体的に整理して表現されています。それらを用いて、育成プランを構築していくことは可能です。場合によっては、外部のブレーンを使って育成プランを構築してもよいでしょう。

 以上はほんの一例ですが、このように、ユーザー企業においても、ITスキル標準をうまく活用して、人材育成につなげていくことが可能なのです。そして、その育成プランに合わせて、評価の仕組みに反映させる部分を見極めていくことができるのではないでしょうか。

 なお、いくらITスキル標準が人材育成に活用できるといっても、限界があります。ユーザー企業で必要とされる機能や役割が、現在のITスキル標準ではすべて網羅されていないからです。従って、人材育成プランを構築する際には、少なくともこの点は意識しておく必要があります。

個人と組織

 次の視点として、「個人と組織」という切り口での見方があります。ITスキル標準を個人に当てはめるか、組織に当てはめるかの違いです。そして、このとき、先の「評価と育成」という視点と組み合わせて見ることが多いでしょう。つまり、以下のような組み合わせです。

  • 個人の育成
  • 個人の評価
  • 組織の育成
  • 組織の評価

 先述の「育成と評価」のところでは、主に個人を意識した説明をしました。企業の中にいる社員1人1人を、どのように評価するか、どのように育成していくかという観点で語っていたわけです。

 ところが、個人個人だけではなく、組織として将来どのようになっていきたいか(育成)、あるいはいまどのような状態にあるか(評価)という見方も必要です。

 組織に対する育成というと、将来の目指すべき体制を実現するために、計画的にどういう人材をどのくらい養成するのかということが焦点になります。自社にどういった職種、専門分野の人材が必要なのかをしっかり考えて作戦を練るわけですが、そこでITスキル標準も1つの参考資料として活用することができるでしょう。

 ただし、将来像を描くにしても、自組織のいまの状況を把握しなければ、どのような方法で理想形に近づけていくかという方法すら見つかりません。そこで、組織の現状把握が必要です。要するに、組織的なスキルの棚卸しです。ここでも、ITスキル標準は1つの参考資料として活用することは可能でしょう。

 このようにして、個人においても、組織においても、育成や評価という観点でITスキル標準をうまく活用することができるわけです。

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