ユーザー企業がITスキル標準を活用する場面〜自社のシステム部門の人材育成・評価と、ベンダ選定時の評価ユーザー企業から見た「ITSS」(3)(3/3 ページ)

» 2005年12月03日 12時00分 公開
[島本 栄光(KDDI株式会社),@IT]
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他者と自己

 最後の視点として「他者と自己」という切り口を挙げます。この視点は、他人のことを見るのか、自分のことを見るのかの違いです。そしてこのとき、他者は他社、自己は自社という企業などの組織であるケースも考えられます。

 ここまでの説明で、育成にしても評価にしても、自らのことを中心に説明してきました。ここで新たに、他者という要素を入れて考えてみます。

 他者を育成するというケースは、教育研修をサービスとして提供している企業の場合には当然のことでしょう。しかし、一般の企業ではあまりなじみがありませんので、ここでの説明は割愛します。むしろ、ユーザー企業で最も重要なのが、他者の評価という視点です。具体的には、ベンダの評価・選定というシーンでのITスキル標準の活用なのです。

 実際のシステム構築の現場を例に考えてみます。

 例えば、何らかのアプリケーションシステムを構築したくて、ベンダに提案依頼書(RFP)を提示し、提案と見積書を受けたとします。ところが、「その見積書の金額が提案内容とマッチしているかどうか判断できない」や、「どのような人がどのフェイズでシステム構築に携わるのかも分からない」といった状況では、その提案内容も見積金額の妥当性も的確に評価できません。

 このようなケースでは、「受発注双方に共通となる判断基準があると良いのではないか?」と誰もが考えます。このようなケースで、ITスキル標準はその共通判断基準になり得る可能性を持っているのです。

 例えば、ここで「このフェイズでは、ITアーキテクトのレベル6の人が1人と、アプリケーションスペシャリストのレベル4の人が3名と……が作業を担当します」というふうに説明があれば、ITスキル標準を理解している人には、大体の想像がつきます。また、不明点もピンポイントで確認ができ、漠然とした不安感のようなものは、かなり払しょくできるのではないかと思うのです。

 しかし、やはりここでも過信は禁物です。いくら、「職種なになにのレベルXX」といっても、それはあくまでも目安でしかないということを忘れてはなりません。誰かがお墨付きを与えているわけでもなく、保証しているわけでもないわけで、極端にいえばベンダ側が勝手にそう判断していってきているだけかもしれません。最後は、自分の目で見て判断していくしかないわけです。単純に、「ある職種のレベルいくつが何人いるから大丈夫」とタカをくくっていると、とんでもない目に遭いますので注意が必要です。

 他者評価という意味では、実はもう1つ期待したいことがあります。これは筆者の希望でもあります。というのは、ITスキル標準の職種とレベルを使って、「『どの分野に強いベンダにはどういう企業があるか?』というのが、明確に分かるようにマッピングしたものが公表されないかな」と、私は常々思っているのです。

 つまり、ある職種の高いレベルの人材を多く抱えている企業が公開されていれば、ユーザー企業は、システム構築を行うに当たり、どのベンダに提案の依頼をすればよいかが絞り込みやすくなります。これは非常に画期的なことです。一方、ベンダ側にしても、ベンチャー企業のような非常に規模の小さな企業であったとしても、ある特定の技術に特化すれば大手企業と対等以上に戦えるようになり、それをユーザー側に強くアピールすることができるわけです。中小のベンダ企業にとって、非常に有効な施策になると思います。

 ただし、この案は、明らかに大手企業にとってはマイナスになる可能性が大きなもので、情報サービス業界全体という目で見ると、ちょっと実現は厳しいかなという気もします。そうはいっても、ユーザー企業にとっては非常に意義のあるものであり、またITスキル標準を上手に活用できる案でもあるわけですから、何とか実現に向けて進めないかなと思ったりもしています。

 以上、3つの切り口で、ユーザー企業におけるITスキル標準を活用できる場面を説明してみました。

 いずれにしても、制度やルールにがっちりと組み込むということはできないまでも、エッセンスをうまく取り込んでみたり、参考にすべきいくつかの情報の1つとしてとらえてみたりすることで、利用価値はあると思います。ただし、エッセンスを取り込んだり、参考情報としたりということは、やはり全体像をある程度つかんでおかなければできません。詳細なITスキル項目の具体的な内容や、各職種・専門分野の正確な定義までは必要ないまでも、前回説明した程度の、ざっくりとした全体的な理解は必須でしょう。そして、その価値はあるといえます。

 今回、ユーザー企業でITスキル標準をどのように使うことができるか、3つの視点に分けて、その考え方を説明しました。次回は、さらにユーザー企業におけるITスキル標準の活用について説明していきたいと思います。

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Profile

島本 栄光(しまもと さかみつ)

KDDI株式会社 システム企画部勤務。情報化人材育成および研修企画を担当。

広島市生まれ。広島大学工学部第II類(電気系)卒業。

東京都立大学大学院(経営学専攻)修了。

ITスキル標準に関する活動としては、ITスキル標準センターアプリケーションスペシャリスト委員会主査、ITプロフェッショナル育成協議会委員、JUAS人材育成研究部会副部会長などに携わる。

そのほか、情報処理学会情報システムと社会環境研究会運営委員、上級システムアドミニストレータ連絡会副会長など、特にユーザーとしての情報システムの在り方について関心が高い。


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