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» 2006年12月20日 12時00分 公開

事例で学ぶビジネスモデリング(9):初めての上流コンサルティング (1/3)

[篠原明子(シニアコンサルタント),ウルシステムズ株式会社]

本稿では、ITを活用した事業の事業性判断を行ったプロジェクト事例を紹介する。その中でIT技術者の秋田くん(仮名)の視点から、上流工程のコンサルティング案件を初めて担当する際に気を付けるべきポイントを述べる。なお、この事例は弊社が過去に実践した複数の事例を組み合わせた架空のものであることをあらかじめお断りしておく。

(1)プロジェクトの概要

 「今回のプロジェクトには秋田くんをアサインしたい。彼はこれまで、IT技術者としてソフトウェアの設計や要件定義の経験を積んできたが、さらに“上流”の仕事を経験させることで、より幅広い見識を持つコンサルタントに育成していきたい。よろしく頼むよ」

 プロジェクトの提案を1週間後に控え、体制の相談をしていたPMの私は、所属長からこう依頼された。

 このプロジェクトの目的は、ある顧客企業のITを活用した新規サービスの事業性を判断することである。この企業は、アパレル業界のメーカーである親会社のシステムをアウトソーシングしており、その経験とノウハウを生かして、同業界向けにASP事業を始めることを検討していた。そこで2カ月の間に構想の具体化と今後5年間の収益予測を行うことになった。

 プロジェクトは顧客の事業部門および情報システム部門から選抜されたメンバーで構成された。しかしITや業界知識に精通した外部コンサルタントの支援も必要であろうという現場責任者の判断から弊社に声が掛かった。弊社は流通業務に知見を持つメンバーとシステム開発に知見を持つメンバーの計3名が参画したが、その中の1人が前述の秋田くんである。彼はもうすぐ30歳になるIT技術者で、アーキテクトやチームリーダーとしては十分な力量を持っていた。かねてからシステムの企画や業務分析プロジェクトに参加することを希望しており、今回上司の推薦を受けて、初めての上流コンサルティング案件に参加することになったわけである。

 最初に2カ月間の活動内容を簡単に紹介しておこう。プロジェクトの活動は1カ月目の前半フェイズと2カ月目の後半フェイズに大きく分かれる。

 前半フェイズでは、事業領域・市場とターゲットとする顧客を定義し、ビジネスモデルを検討した。具体的には、どの企業に対してどういう機能を持ったアパレルASP(以下、今回対象とするASP事業をアパレルASPと呼ぶ)を提供していくのか、どのようなルートで料金を回収するのか、という点を検討した。また、新規事業と全社方針の整合性を取り、事業の方向性を固めるために、今後の経営計画や意見を聞く社長インタビューを実施した。

 後半フェイズでは、コストを見積もり、サービス価格を設定して、5カ年の収益試算を行った。ここでのコスト見積もりは事業全体を対象とするため、システムの開発や保守コストだけでなく、営業やマーケティング、運営などの業務コストも対象とした。サービス価格は、同業界のASPの市場価格やシステム投資額を調査し、自社の採算性も勘案しながら適正と思われる価格を設定した。そのうえで、提供顧客数やサービス内容を決め、5年間の売上・利益・総コストを試算し、損益分岐点を求めた。


<<上流コンサルティングのポイント>> 顧客から見ると、ITは目的ではなく、あくまでビジネスを成功に導く1つの手段でしかない。従って、全体の収益性を評価するためには、IT以外のコストも含めて評価する必要がある。


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