初めての上流コンサルティング事例で学ぶビジネスモデリング(9)(3/3 ページ)

» 2006年12月20日 12時00分 公開
[篠原明子(シニアコンサルタント),ウルシステムズ株式会社]
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(3)秋田くんの学び

プロジェクトが終了し、私はプロジェクトメンバを集めて、プロジェクトの反省会を行った。秋田くんは今回のプロジェクトの感想と学びとして次のように述べた。

 「今回のプロジェクトは、初めてのことばかりで大変でしたけど、すごく勉強になりました。特に、ほかの会社の社長さんに面と向かってインタビューする経験は貴重でした」

 そんなふうに切り出した彼は、続けて次のように話した。

 「今回算出した投資コストでは、システムの開発・運用費用が大きな割合を占めていたことを見ても、ITが企業経営にとって重要な要素になっていることがよく理解できました。しかし一方で、IT技術者の立場から見ると、今回の見積もりには違和感も覚えました。なぜならアプリケーションの細かい機能、例えば、ユーザーインターフェイスをどれくらい複雑に作るのか、取消・訂正機能やマスター管理機能をどこまで用意するのか、といった細かい仕様についてはきちんと議論できていませんし、ミドルウェア製品やフレームワーク、開発ツールなどの技術選定も大方針レベルにとどまっています。実際にシステムを作るうえではこうした事柄が生産性や品質に大きな影響を及ぼすはずです。事業性を判断するためには必要十分だったかもしれませんが、実際にシステムを構築してアパレルASPのビジネスを成功させるまでには、越えなければならない山がいくつもありますよね」

 「そのとおりだと思う。見積もりに関しては、今後要件定義を行った後に再度見積もりを行い、段階的に精度を上げていくことになるわ。事業やシステムの企画も重要な仕事だけど、この後に続く要件定義から始まるシステム開発の仕事も同じく重要よ。ところで秋田くんは、今後はIT技術者と上流コンサルタントのどちらを目指したいの?」

 私がそう質問をすると、彼は目を輝かせながら答えた。

 「今回の上流コンサルティングの仕事にはとても刺激を受けたので、またぜひこういう仕事をやってみたいと思います。しかし自分はいままでやってきたプログラミングや設計の仕事が好きですし、その仕事に誇りも持っています。従って自分自身のキャリアの方向性については、しばらくいろいろな経験を積みながら、じっくり考えていきたいと思います」

 上流コンサルティング案件を経験したことで、秋田くんはIT技術者として一皮むけたようである。今後彼が上流工程のコンサルタントを目指すにせよ、IT技術者としてスペシャリストの道を選ぶにせよ、今回のプロジェクトは彼にとって貴重な経験になったに違いない。

筆者プロフィール

篠原 明子

ウルシステムズ株式会社 シニアコンサルタント



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