情報システム部門はビッグチャンスをつかめCIO、もの申す(1)(2/2 ページ)

» 2007年03月26日 12時00分 公開
[佐藤 良彦,@IT]
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経営者の役割、システム部門の役割

 下のグラフはIT投資の有効性に関して、経営者のIT認知度を示したものです。少しデータとしては古いかもしれませんが、現在の状況ともそう大きな変わりはないと思いますのでご容赦ください。

グラフ1 経営者のIT認知度(出所:NRI「2003年 ユーザー企業のIT運営実態調査」)

 これを見て、「経営者って、やっぱりITを分かっていないな」と思われるかもしれません。「理解して承認? なんて手間を掛けさせるんだ」と思われるかもしれません。「無知な経営者に理解させる、その行為自体が大変なんだよ」とぼやかれるかもしれません。さらに「自ら評価している」「自ら指示する」の数値の低さからもそのように想像をされる人も多いことでしょう。しかしです。「経営者が自らITを評価し、自らが指示する」なんていうのは、一般的な経営者には酷な話です。情報システム部門出身の、あるいはよほどIT知識に富んだ経営者でない限り、単なる「ないものねだり」です。

 だったら、もっと情報システム部門を信頼し、もっと情報部門やIT担当役員、情報システム部門長に権限を委譲したらいいのではないか──と思う方もいらっしゃるでしょう。権限の委譲の範囲や経営者の関与度合いについては、さまざまな意見があると思いますが、いずれにしても経営者(特に社長)が情報システム部門にIT化の方針や戦略を丸投げにして、(何だかよくわらからないまま)予算承認だけをするというようなことはあってはならないという認識は、読者の皆さんと共有できていると信じています。

 さて次のグラフは、経営者を含むITに関する意思決定について示したものです。

グラフ2 ITに関する意思決定(出所:NRI「2003年 ユーザー企業のIT運営実態調査」)

 総じて経営者自身と各事業責任者の意思決定の関与度合いの低さに驚きます。ましてやIT活用方針や投資案件という、いわば経営直結といっても過言ではない工程に対して、IT担当役員(おそらく情報システム部門長が含まれているでしょう)の関与度が低いのか、理解し難いものがあります。この状態こそ、情報システム部門のブラックボックス化による負の産物なのです。責任は、経営者にも情報システム部門にもあります。

真のCIOを目指して

 皆さんもITのプロであるならば、彼らも経営のプロです。皆さんがITという得意な分野でITを武器にしているのであれば、経営者は経営という分野を得意にし、IT以外の何か武器を持っているのです。いわば、両者ともその道のプロであり専門家だといえるでしょう。

 その認識のうえで、それぞれの立場や役割を個人的な感性(極端にいえば好きか嫌いか、相性が合うか合わないか)に流されることなく、もっと理解し合い、意識し合わなければなりません。そうすれば経営者に対しての説明責任が、ITのプロとしての情報システム部門にはあることにおのずと気が付くはずです。逆にいえば、経営者は経営のプロとして、経営に関する説明を情報システム部門に対して行う義務があり、その面からITにもっと関与する必要性に気が付くはずです。経営者は情報システム部門を経営に巻き込み、情報システム部門はIT投資などの意思決定に経営者を巻き込むべきなのです。

 こうした意識を両者がお互いに持つことにより、やっとコミュニケーションをするためのルートが確保されます。でも、これだけではまだ足りません。この状態だと言葉の異なる外国人同士がお互いの母国語でいいたいことを勝手に相手に投げつけるだけに終わってしまいます。ここにお互いを通訳する存在──CIOのように経営とITに携わる、ブリッジ的役割を担う存在が必要になります。最近は、「うちの会社にはIT担当役員(CIO)がいます」という経営者に出会うことも少なくありませんが、多くの場合、「ITは経営に必要だ」と感じた経営者が「そのためにはCIOというのが必要らしい」ということで、取りあえず社内でそれらしい人材をアサインしているにすぎないことが多いようです。このような役割を果たせる人を見つけることは、非常に難しいこととされています。現に、小生に相談に来る経営者や人事の担当役員なども、「なかなか、いい人が見つからない」とぼやいています。

 どうして、このような人材が見つけられないのか? どのような仕組みで情報システム部門を運営し、どのようにして経営者とのコミュニケーションを図っていくべきか、その中でITマネジメントをどのように考えていけばいいのか──。次回以降、連載が続けられる限り、このコラムを通じて書いていきたいと思っています。もし、このコラムを読んで、共感や批判の意見がありましたら、ぜひ下記のアドレスまでお寄せいただければ幸いです。

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筆者プロフィール

佐藤 良彦(さとう よしひこ)

1965年生まれ。日本工業大学大学院 技術経営研究科(MOTコース)修士課程修了。 日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)の情報システム部門および国際業務企画部門にて国内・海外の基幹系、情報系システムの企画・開発・運用において大小さまざまなITプロジェクトに携わる。その後、デロイト・トーマツ・コンサルティング(現アビームコンサルティング)などで、新規事業や新規事業部門の立ち上げ、IT企業の再生、大型BPRプロジェクトなどの案件を手掛ける。また、IT教育ベンダ最大手のグローバルナレッジ・ネットワークで、IT戦略系、プロジェクトマネジメント系のコンサルタントや講師としても活躍の実績がある。現在は、某インターネットポータルサイト運営企業において、情報システム本部長を務める一方、高度IT人材の育成や、技術経営(MOT)の普及のために、2007年4月から母校である日本工業大学大学院技術経営研究科(MOTコース)の客員教授も兼任。


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