日本版SOX法対応における業務フローチャートの役割新発想の業務フローチャート作成術(1)(2/2 ページ)

» 2007年09月03日 12時00分 公開
[松浦剛志(プロセス・ラボ),@IT]
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3点セットの連携を高めるには

 3点セットの連携がうまく取れていると、将来の負担も軽減される。

 日本版SOX法対応は、1回だけのイベントではなく、今後、永続的に繰り返されるものである。なぜならば、業務プロセスは絶え間なく変化していくからである。例えば、交通費の精算にSUICAを利用し始めたとか、商品の代金決済に代引きを導入したなどは、いずれも業務プロセスに変更をもたらす。

 3点セットの連携は、どのように取るのであろうか。

 業務フローチャートと業務記述書の関係は、業務フローチャートの作業1つ1つに業務記述書が対応する形が望ましい。業務フローチャートとは担当者間を行き交う流れを示すものであるが、業務記述書は担当者ごとに作成するケースが多い。担当者がそれぞれバラバラに更新すると、いつの間にかこの2つの資料の連携は崩れたものになってしまう。

 業務フローチャートとリスク・コントロール・マトリックスの関係においては、業務フローチャートの構成単位である作業に、リスクとコントロールが適切にプロットできるように、作業の大きさが設定されていることが重要になる。

業務フローチャートについて考える

 ここまでで、3点セットにおいて業務フローチャートが鍵を握っていることは、理解できたであろう。では、業務フローチャートとはそもそもどんなものであろうか?

 「業務プロセスの手順、ないし帳票・データの流れを表した図。定められた記号を線・矢線などで接続したもので、業務プロセスにおける手続きや職務間の関係、帳票やデータと作業のつながりを分析するために使われる」と説明されている。

 もう少し分析的ないい方をすれば、業務プロセスにおいて、その構成単位である「作業」を、「誰が・何を・どうする・いつ・どうやって・どのくらい」という「要素」に分解し、それに「流れ」を加え、視覚的に理解しやすい形に再構築したものといえる。

 実は、業務フローチャートは、日本版SOX法のみならず、上場審査、業務改善、業務システム導入時など幅広く利用されているが、作成方法の標準化・公式化が難しく、従来から多くの人を悩ませてきた。先述のように、日本版SOX法対応についても「煩雑な業務フローチャート作成は避けるべきだ」という意見もあるほどである。何が問題なのであろうか。

 業務フローチャートは、一般的には、「組織や担当者ごとに区切られた枠線の中で、一定方向に作業の流れを描いていく」という以外に明確な公式がなく、書き手の創意工夫に大きく依存したものであった。産能大式のように公式化されたものも存在するが、ルールが複雑で習得が難しいため、関与する人(作成、確認、監査)が多い日本版SOX法対応には不向きである。

図2 一般的な業務フローチャートのイメージ

 実際に業務フローチャートを作成した経験があれば分かることだが、作成する際に大変なのは、現実の業務プロセスについて、どこまで多く業務バリエーションを取り込み、具体的に・詳細にとらえるか、そして業務フローチャート上に表現するかである。

 同じ業務プロセスについてヒアリングしても、相手がきちょうめんな人かおおらかな人かによって、そもそも「何をしているのか」からして説明が違ってくる。「何を」の認識は共有していても、それを業務フローチャートに盛り込む必要があるか否かについて、認識が違うこともある。同じ業務プロセスについて、どのような作業から成り立っていて、それぞれの作業がどうつながっているのかも、考え方が違ってこよう。

 さらに、出来上がった業務フローチャートを活用する際には、読み手の関心、見やすさとの兼ね合いもある。同じ業務フローチャートを見ても、読み手によって「大ざっぱ過ぎて分からない」「細か過ぎて分からない」などと反応が分かれることもある。

 まとめると、(1)業務バリエーションをどの程度多く盛り込むのか?(2)業務フローチャートの構成要素である作業をどの程度の大きさ(粒度)に定義をするのか?という2つの点が最大の課題となる。

 この課題、つまり業務フローチャートの標準化を実現するために、作成を担当する人たちが綿密に打ち合わせを行う、あるいは限られた人(極端には1人)が作成をすべてにわたって行うという2つの方法が考えられる。いずれにしても、担当者の負担が大きくなりすぎるリスクがある。

 一方で、業務バリエーションを極力排除し、粒度を極力大きくするという方針で進める方法もあるが、これではベースとなる業務フローチャートはモレが多く大ざっぱなものなるため、業務記述書やリスク・コントロール・マトリックスとのひも付けがされずに、監査法人からクレームをつけられるリスクを負うことになる。

 では、業務バリエーションをその気になればすべて盛り込める様式と粒度を定義する、簡単な公式はあるのだろうか?

 本連載の初回は、企業にとって喫緊の関心事となっている日本版SOX法対応という切り口から、説明を始めた。しかし、実は本連載で紹介する(「業務プロセスの可視化」手法である)業務フローチャートは、従来の手法に比べて、簡単で、更新もしやすく、誰でも身に付けて日常的に活用できる手法なのである。そのため、日本版SOX法に限定しない、いろいろな実際の業務に役立てることができる。次回以降、この新しい手法について、発想、作成法、活用法を説明していく。

 各回のテーマを下の表にまとめた(記事タイトルはこれらとは異なるものが設定される可能性がある)。

 第2回、第3回にわたって、業務フローチャートを作成するうえでの2つの課題について考える。第2回では業務バリエーションの盛り込みについて、第3回では粒度の定義について、それぞれを困難にしているのは何かを明らかにしたうえで、打開する糸口を考える。

 さらに第4回では、業務フローチャートに「時間」の視点をどう取り入れるか、具体的には作業の開始・終了条件をどのように可視化していくのかについて考える。

 最終回の第5回では、作成された業務フローチャートを、日本版SOX対応のためではなく実業務に役立たせることで、法対応のコストを、実ビジネスへの投資に転換することができないかを考える。

回数 内容
第1回 日本版SOX法対応における業務フローチャートの役割
第2回 業務フローチャートのツボ 1 〜業務バリエーションの盛り込み〜
第3回 業務フローチャートのツボ 2 〜作業の大きさの揃え方〜
第4回 業務フローチャートのツボ 3 〜時間の盛り込み方〜
第5回 J-SOX対応コストを将来への投資に転換する

著者紹介

松浦 剛志(まつうら たけし)

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、 人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。

2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。



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