業務フローチャートの粒度をそろえるにはどうするか新発想の業務フローチャート作成術(3)(3/3 ページ)

» 2007年09月19日 12時00分 公開
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新しい視点による業務フローチャートへの展開

 今度は「何を・どうする」で作業を定義することを考えてみよう。今回の考え方は、以下のように定義できる。

要素
分類
ルール
誰が 絶対的記載事項 スイムレーンにより定義
どうする 絶対的記載事項

専用のスイムレーンに枠としてプロットし、枠内にその内容を体言止めで簡潔に記載
「何を」のスイムレーンに、情報を加工する動作を体言止で簡潔に記載

何を 絶対的記載事項 スイムレーンにより定義
流れを示す要素=「どうする」のうち、専用のスイムレーンにプロットされたもの

 この定義により作成される業務フローチャートは以下のようになる。

図2 新たな記載ルールに基づく業務フローチャート

  いかがだろうか? 実は、例のヒアリング結果ではあらかじめ、「何を・どうする」(=「どのような媒体に対して、どのような加工をするのか?」)がそろえてあったので、粒度自体は上と下で変わりはないが、イメージがつかめただろう。

きちょうめんな人と大ざっぱな人の違いの克服

 他人の業務内容をヒアリングした経験のある人は、「そもそも話を聞き出すまでが大変だ」と気付いたかもしれない。同じ例で今度は、金井さんはきちょうめんな人、松岡さんは大ざっぱな人で、以下のように自分の業務を認識していたとする(岡田さんは、同じ内容なので省略する)。

2. 金井:
注文書に関して私のやる仕事は、まず注文書を見て、日付が合っているか、顧客の社名とご担当の部署名・お名前が書いてあるか、製品名と型式番号が書いてあるか、注文数が書いてあるか、単価と合計金額が書いてあるか、納期が書いてあるか……(中略)、確認します。問題がなければ、社内システムを立ち上げて、私のログイン名とパスワードを入力して、メニューから「受注処理」をクリックして、受注画面が出たら、注文書を見ながら、日付を入力して、お客様の社名とご担当の部署名とお名前を入力して……(中略)、全部入力したら、「受注」をクリックします。すると確認画面が出るので、念のためもう一度注文書と見比べたうえで、「確認」をクリックします。それから、社内システムのメニューから「与信管理」を選んで、顧客の社名で検索して、該当顧客を選択し、「与信残高一覧」をクリックします。すると、その顧客の与信残高一覧が画面に表示されるので、顧客名が間違いないか確認したうえで、「与信残高一覧印刷」をクリックします。与信残高一覧が印字されたら、それを注文書にクリップで留めて、各営業担当者に渡します。

3. 松岡:
私たち営業担当者は、注文書を受け取ると、個社別の与信チェックをして、金井さんに戻します。

 こうした認識の下で、業務フローチャートの作成を各人に任せたら、どうなるだろうか? しかも「誰が、何を、どうする」を1つの点で示す従来の方式で、思い思いに作成したとしたら? 3人からそれぞれ、全く粒度の異なる業務フローチャートが出てくるだろう。その3枚のチャートを見る人は混乱してしまい、全体像を把握することは困難だろう。

 金井さんと松岡さんに、「見る方の立場も考えて」「もっと要点だけに」「もっと具体的に」などと一般的ないい方で指示をしても、それぞれの自己認識では自然な粒度なのであるから、「そういわれても、どうすればいいのか分からない」ということになってしまう。

 だが、新発想の業務フローチャートでは、作業を「媒体上で行う情報の加工」と定義している。この定義に従って、「情報の載った媒体に対して、何か加工をしているか?」「どのような媒体に対して、どのような加工をするのか?」と担当者に問うことで、作業を特定していくことができる。

 上の例で、金井さんの話は、個々の作業における詳細な手順に及んでいる。例えば、「注文書」「社内システム」「与信残高一覧」は媒体であるが、「顧客の社名」などは媒体の中の一項目であって、媒体そのものではない。松岡さんの話は、「個社別の与信チェック」とはどのような媒体に対して、どのような加工をすることなのかが分からない。

 2人の話を、媒体と加工する動作を軸としてそれぞれ組み立て直すことで、自然に粒度はそろってくるのである 。

新発想がもたらす副次的効果

 上記では、「業務とは?」という本質を掘り下げた結果、業務の最小単位である作業を「媒体上で行う情報の加工」と定義し、粒度の均一化を図った。さらに、媒体を描画式に添え描きするのではなく、媒体ごとのスイムレーンを設けることで、「何に」「どうする」という作業粒度を自然と均一にする方法を考えた。

 この方法には、いくつか副次的な効果がある。

 第1に、従来「重要ではない」とか「描き切れない」ということで省かれることが多かったドキュメント類が、業務フローチャート上に網羅されるようになった。

 第2に、「情報の加工」という切り口は、日本版SOX法との親和性が高い。作業を「媒体上で行う情報の加工」と定義しているので、情報−より正確には情報の載った媒体−に何らかの加工がされるポイントが、この方法ではモレなく抽出できる。日本版SOX法は財務情報にフォーカスしているが、業務プロセス上で、財務情報の正確性を脅かすリスクは、情報に加工がされるところに存在すると考えられる。そのため、この作業の定義だと、リスクとコントロールが業務フローチャート上に正確にプロットできる。

 第3に、情報の流れが分かるため、情報源をトレースしやすく、情報システムの開発や業務上の問題点の解明に役立つ。

 前回と今回で、業務フローチャート作成時に必ず起こる2つの課題を解決してきた。解決のための糸口は、一言でいえば、作業の構成要素を分解し、複数の流れに切り分け、1つの作業を複数の観点から再構築することにある。

 次回は、業務フローチャートに、「時間」を盛り込む方法について考える。

著者紹介

松浦 剛志(まつうら たけし)

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、 人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。

2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。



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