今回は、日本でも注目を浴びるようになった多様性マネジメントの基本概念を紹介し、オフショア開発に関連する問題分析への適応を議論しました。具体的には、多様性の中でもオフショア開発者の関心が高い4つの次元に焦点を当てて、プロジェクトマネジメントの領域で多様性マネジメントを説明しました。
言語の多様性: | 「外国人日本語」によるコミュニケーションの多様性をコントロールする |
---|---|
組織の多様性: | 組織運営と組織構造の多様性に注意して、問題が発生したときには個人攻撃ではなく根本原因にメスを入れる |
文化の多様性: | 自分と同様に相手をプロフェッショナルとして尊重する。相手を理解するまでは、「違う」ことを前提にコミュニケーションを図る |
地域の多様性: | ポートフォリオマネジメントによる資源配分 |
わが国におけるオフショア開発では、言葉や商習慣の違いが私たちの行く手を阻むため、厄介な多様性をいかにコントロールするかに主眼が置かれます。
ですが、本来の多様性マネジメントの趣旨は違います。多様性をなくすことに神経をとがらせる日本企業とは対照的に、多様性マネジメントで先端を行く企業や業界では、「多様性を活用して、いかに企業業績を向上させるか」を議論します。方向性がまるで異なります。
*Anne Marie Francesco and Barry A. Gold (2004), International Organizational Behavior, Prentice Hall College Div.
それでも、私たちは悲観することはありません。足元の多様性をコントロールせずして、日本のオフショア開発が発展することは決してないからです。
文書の記述言語や国民文化といった個別の多様性を扱えるようになって、初めて全体を統合する多様性マネジメントを実践する段階に移行します。それまで私たちは、辛抱強く基礎体力を付けるしかありません。それを支える知識とツールが、ちまたで叫ばれる異文化コミュニケーションマネジメントであり、オフショア大學で学ぶオフショア開発コーディネート行動特性モデルでなどの人材要件フレームワークです。
オフショア開発に従事するすべての人は、言葉や文化の壁を超える真のプロフェッショナルを目指しましょう。
大前研一氏は、「『顧客へのコミットメント』こそ、アマチュアとプロフェッショナルを分ける存在だ」と言い切ります。
どんなに多様性に満ちた世界であったとしても、「顧客主義」という北極星にも似た揺るぎない共通軸に沿って判断することで、複雑怪奇な多様性マネジメントの世界に一筋の光明を与えます。
大前氏は、さらに「プロフェショナルには、見えないものを見る力や統合する力が要求される」と説きます。目に見えないインタンジブル(intangible)な多様性を操作するには、相反する複数の多様性にもめげず、正しい答えのない世界で洞察し、判断して組織を動かします。
真のオフショア開発プロフェッショナルなら、中国の結果主義と日本のプロセス主義の両方を殺さず、かといって安易な妥協案を探るのではなく、双方の良さを統合して状況に応じた最適解を導きます。三段論法(「AならばB、BならばC。ゆえにAならばC」)では対処できない世界を生き抜く力こそ、多様性マネジメントに欠かせない統合する力です。
幸地 司(こうち つかさ)
琉球大学非常勤講師
オフショア開発フォーラム 代表
アイコーチ株式会社 代表取締役
沖縄県生まれ。
九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ株式会社(旧アイコーチ有限会社)を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門〜失敗しない対中交渉〜」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。
オフショア開発フォーラム:http://www.1offshoring.com/
アイコーチ株式会社:http://www.ai-coach.com/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.