業者イジメはパワハラ? コンプラ違反?読めば分かるコンプライアンス(11)(2/5 ページ)

» 2008年09月24日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

コンサル会社における間接部門員という立場

 施設管理部は、社内の設備の維持、社内レイアウト変更(リモデリング)の実施、コンサルティング業務の都合で地方都市に拠点事務所を構える際の拠点事務所の設備の保守などが主な業務だった。

 西山は、グランドブレーカーの仲間は好きだったが、自分の生涯にわたるキャリアを考えた場合、この会社は自分が働き続けられる場所ではないと考えていた。

 コンサルティング会社にとってコンサルタントは商品であるため、コンサルタントのための教育プログラムとキャリアパスはしっかりと確立されているが、管理部門の教育プログラムとキャリアパスはコンサルティング部門と比べるとあいまいな部分が多い。

 その処遇の違いを「差別」と見るのは自分自身の偏見かもしれないが、コンサルティング部門と管理部門の業務の本質的差異に基づく「区別」が存在するのは事実である。自分のキャリアを伸ばして、より高いステータスと収入を得るためには、そんな「区別」のない会社に転職するしかない。しかし、いまのスタッフレベルで転職するのは不利である。グランドブレーカーで「マネージャ」という肩書を得てから転職することが必要だ。

 西山の評価は、上司であり最終的な評価責任者である施設管理部長により決められる。今年の評価は、通常業務の評価に加えて、転職フェアプロジェクトリーダーによる評価も考慮されて決められることになる。

 西山は、通常業務の評価については「B評価」以上である自信があった。従って、転職フェアプロジェクトでリーダーから「A評価」以上の評価をとれば、施設管理部長による総合評価で「A評価」になる可能性が極めて高くなる。もし、今年の総合評価が「A評価」になれば、勤続年数と平均総合評価から見て、来年度にシニアスタッフからマネージャに昇進することはほぼ確実だった。

 これが西山の戦略であり、今回の転職フェアプロジェクトは、マネージャ昇進をほぼ確実にしてくれる可能性を含んでいるだけに、西山にとっては大きなチャンスだった。

ALT 西山 新吾

 西山が転職フェアプロジェクトのメンバーに任命されたのは、居酒屋で神崎と飲んだ日の約2カ月前だった。それからというもの、西山は、転職フェアプロジェクトの仕事のために馬車馬のように働いてきた。プロジェクトリーダーに頼んで自ら事務局となり、プロジェクト全体のスケジュール表を作成して進ちょく管理を行い、定例ミーティングを組んで必要資料や議事録を作成し、重要な決定事項についてはあらかじめプロジェクトリーダーの意向を聞いておいて、それを基にプロジェクトメンバーに事前の根回しをして、逐一プロジェクトリーダーに報告した。

 そのような事務局業務の合間を縫って、自分の担当分野である会場設営業務についても準備を進めてきた。

 まずはフェニックス社に連絡をして、準備作業と本番前日の設営作業についてフェニックス社のスケジュールを押さえた。

 その次は、本来ならば、定例ミーティングでの協議事項に基づき、フェニックス社の富岡社長との綿密な打ち合わせにより、具体的な設備と、それに必要な作業スケジュールと見積額を割り出すべきであった。

ALT 富岡社長

 しかし西山は、種々雑多な通常業務をいつも通りにこなす傍ら、転職フェアプロジェクトの事務局業務と会場設営準備業務をこなしてきたというオーバーワークのために、フェニックス社の富岡社長との打ち合わせの時間を省略してしまった。

 西山は、去年のリモデリングの工事内容が今回の会場設営の工事と似ているように思われたので、去年の工事単価を参考にして多少高めの単価を設定し、それを基に費用総額の見積額として「291万円」という数字をはじき出したのだった。

 これは、会場設営費として会社から指示されていた300万円の予算枠の97%の数字である。作業スケジュールについても、自分自身の思惑だけで「おおよそこんなものだろう」という具合に決めたのだった。いわば、見積額もスケジュールも自分自身の“勘”で決めたようなものだった。

 この点について、西山の中に多少の不安がないわけではなかった。

 しかし、フェニックス社の富岡社長とは懇意であり、いままでの取引実績や、今年の暮れに予定されているリモデリングの発注を考慮してもらえば、今回の仕事についてもかなり譲歩し協力してくれるだろうという、自信とも期待ともつかない予測があった。

 社内的な問題については、ほとんど心配することはなかった。人件費抑制のため、施設管理部では人手不足状態が慢性化していた。会社はこれを「少数精鋭主義」と呼んでいるが、その実態は兼務体制による綱渡り状態であった。

 いきおい、上司である施設管理部長は、スタッフが約束した成果を出したか否かだけで判断するのが精いっぱいで、業務プロセスにチェックを入れてくることはなかった。

(とにかく、「結果」さえ出せばそれでいい)

 西山の関心は、その一点だけで見切りをつけていた。

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